学校・家庭・地域が一体となった取り組みを −未成年の喫煙予防における学校禁煙化の意義−

くば小児科クリニック 久芳康朗
(八戸市いのちをはぐくむアドバイザー事業担当医)


 学校の禁煙化には、受動喫煙の防止と未成年の喫煙防止という2つの大きな目的があり、そのためには学校を禁煙にするだけでなく、家庭や地域が一緒になってタバコの害を理解し、子どもが朝起きてから夜寝るまでタバコに接することのない「無煙環境」をつくっていくことが必要になります。

想像以上に大きい受動喫煙の害

 タバコの副流煙と喫煙者の呼出煙が混じった「環境タバコ煙」を吸い込んでしまうことを「受動喫煙」といいます。タバコ煙の有害物質のほとんどは、主流煙よりも副流煙に高濃度に存在しています。
 喫煙者の2人に1人は肺がんや心筋梗塞などのタバコによる病気で命を落としていますが、日常的な受動喫煙でも20人に1人 (5%)が亡くなっています。これは環境汚染物質許容基準の5000倍にも達する“猛毒”であることを意味しています。
 現在、国内で喫煙により毎年10万人以上が死亡しているのに加えて、受動喫煙によって約2万人が死亡しているという、想像をはるかに越える被害の実態がわかってきました。

子どもの喫煙が及ぼす深刻な影響

 未成年の喫煙は「法律で禁じられているから悪い」のではなく、大人にも有害なタバコが未成年にはより深刻な影響を及ぼすからいけないのです。19歳以下で喫煙を開始すると、同等量の喫煙で肺がん発生のリスクを1.8〜6倍も増加させます。また、未成年は短期間で「ニコチン依存症」に陥りやすく、いったん吸い始めるとやめられなくなるのです。

未成年の喫煙防止には包括的な対策を

 未成年の喫煙を防ぐためには、家庭や学校における防煙教育、タバコの広告や自動販売機の規制、タバコ税の大幅増税などとともに、学校や家庭、各種施設や飲食店などを含めた子どもをとりまく無煙環境の実現が必要です。親や教師などの身近な大人が「喫煙しない」という望ましいモデルを子どもに示すことが何よりも重要なのです。

分煙では誰の健康も守れない

 タバコの害を教育する場である学校や医療機関、行政施設は例外なく全面禁煙にしなくてはいけません。中途半端な分煙は、タバコの被害者でもある喫煙者が禁煙する機会を失わせることに繋がりかねません。

禁煙は意志の強さとは関係ない

 タバコの依存性により禁煙したくてもやめられない教職員や保護者の方でも、最新の禁煙支援・治療によって苦しまずに禁煙できる時代になっています。未成年のくり返す喫煙には、厳しい叱責や処分ではなく早期からの医学的なサポートが必要です。

「無煙世代を育てよう」(世界禁煙デー標語)

 喫煙という悪習を次世代に持ち越させないためには、まず大人社会が変わらなければいけません。学校の禁煙化はその第一歩であり、無煙社会の実現にむけて学校、家庭、地域、行政が一体となって取り組んでいくことが、私たち大人の責務と言えるでしょう。

(『広報はちのへ』掲載予定原稿)


※この原稿は、小中学校の禁煙化の意義を『広報はちのへ』に掲載して市民にあらためて認識してもらうために、八戸市から八戸市医師会を介して依頼されて作成したものですが、学校だけでなく医療機関や行政施設はすべて分煙ではなく禁煙にという部分や、未成年の喫煙防止における包括的な対策の中の「タバコ自販機の規制やタバコ税大幅増税」などは市の広報に載せられないとのことで折り合わず、結局この原稿は引き上げて全く別の市が用意した原稿が使われることになりました。ここで指摘された点は、未成年の喫煙予防において最も重要な点であり、私が主張したかった「学校の禁煙化はスタート地点でありゴールではない」という趣旨は全く市民に伝えることはできなくなりました。貴重な機会を逃して大変悔しい思いをしましたが、結局八戸市ではこの後3カ月で市役所を全面禁煙にすることになり、私の書いたことが正しかったことを市が自らが認める格好になりました。また、自販機やタバコ税の部分も諸外国で成功し世界銀行も認めるタバコ抑制政策であり、これを伝えない未成年の喫煙予防政策などというものは「ウソ」であることになり、譲ることのできない一線でした。近い将来、歴史が八戸市の誤りを証明することになるでしょう。

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