■ くば小児科クリニック 院内報 2001年11月号・12月号合併号

 11月号をだしそびれているうちに月が変わり、今年もあとわずかになってしまいました。そろそろインフルエンザが流行りだしてもおかしくありません。今年はテロや事件などが続き何かと大変な年でしたが、医療を巡る環境はまだまだ大きく変わりそうです。


院内版感染症情報 〜2001年第50週(12/10-12/16)


	  2001年 第36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50週
インフルエンザ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
A群溶連菌咽頭炎  0  1  1  0  0  1  0  0  0  0  0  0  0  0  1
感染性胃腸炎      3  5  0  2  6  5  6  9  4  6 29 39 33 29 18
水痘              0  0  2  1  1  0  0  0  0  1  0  2  1  3  0
手足口病          1  1  2  6  2  0  3  0  4  0  1  0  0  0  0
伝染性紅斑        1  0  0  0  0  0  0  1  1  1  3  2  0  1  3
突発性発疹        1  2  2  1  2  1  1  3  2  5  3  4  1  1  1
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  1  3  1  2  0  3  0  0  0  0  0  0  0  0
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    1  7  5  1  3  1  0  1  0  5  1  1  5  1  5
 11月中旬から、腹痛・嘔吐のあとに下痢してくるウイルス性の胃腸炎がかなり流行していましたが、12月に入ってやや下火のようです。毎年この季節に同じようにみられるもので、BeFMの番組でもお話ししました(ホームページをご覧下さい)。原因は SRSV というウイルスと考えられ、嘔吐は最初の一晩が主ですので、初期のケアが大切です。

 そして、12月に入って流行してきたのが、この統計には出てきませんが、咳が出て痰がからみすぐに気管支炎に進展してしまうタイプの風邪で、その中には RS ウイルスという冬に流行るウイルスが含まれていて、特に乳幼児で急性細気管支炎になって重症化する子がみられております。具合の悪いときには早めに受診するようにしましょう。

 その他には、保育園などでおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)とリンゴ病(伝染性紅斑)の流行が続いており、多めで推移しています。


● インフルエンザの予防接種 〜高齢者の公費接種について〜

 先月号にも書いたように高齢者の接種が変わります。また、予防接種に関する混乱した情報もみられているので、再度整理しておきます。

 まずは、もし接種する場合はなるべく年内または年明けまでに2回目が終わるようにスケジュールを組みましょう。流行が始まってから接種してもほとんど効果は期待できません。

【1】任意接種=全額自費 …0歳〜64歳

○ 対象

 ・新生児・乳児:積極的に接種を勧めているわけではありませんが、接種すれば抗体は十分上昇することがわかってきました。本人ではなく家族が予防接種を受ける方法もあります。
 ・生後6か月以降:個別防衛を目的とするものなので、保育園に行っている子やハイリスク児を中心に、希望があれば医学的な問題がない限りどなたでも接種できます。

○ 方法

 ・1歳未満:0.1ml 皮下注 × 2回
 ・1〜5歳:0.2ml 皮下注 × 2回
 ・6〜12歳 :0.3ml 皮下注 × 2回
 ・13〜64歳:0.5ml 皮下注 × 1回または2回

○ 特に接種が勧められる方は...

 ・心臓病、腎臓病、呼吸器の病気(喘息も)等の慢性の病気がある方
 ・乳幼児および高齢者、家族に乳幼児や高齢者がいる方
 ・教師、保母・保育士、医療・福祉関係者、警察・消防関係者など

○ 料金は医療機関によって異なります(統一価格は独禁法違反)

 ・当院では今シーズンは1回 ****円(ワクチン代込み

【2】予防接種法改定による接種 …12月20日より実施

○ 対象

 ・65歳以上の方
 ・60〜64歳で、心臓、腎臓、呼吸器、HIVで免疫機能が低下した方

○ 方法

 ・0.5ml 皮下注 × 1回
 (ただし、ウイルスの型に大きな変異がある場合は2回接種が必要)

○ 料金

 ・八戸市:3,181円(ワクチン代抜き)のうち、自己負担は1,000円
 ・階上町:3,231円(ワクチン代抜き)のうち、自己負担は1,000円

※当院では、成人および高齢者の接種は、通院されているお子さんのご家族に限らせていただいております。


● 八戸市でも全ての小中学校を校内全面禁煙に!

 9月に「子どもを喫煙者に育てないために」と題してデーリー東北に記事を書きましたが、まさにその実践が市内の長者小学校で実現することになりました。せっかくの取り組みが一部の圧力によって潰されることなく周囲に広がっていくのを支援するために投書欄に投稿しました。

 六日の紙面で八戸市立長者小学校が来年一月から校内全面禁煙になるという記事を読み、我が意を得たりと大変うれしく感じました。伊藤校長をはじめ教職員およびPTAの皆さまの英断に心から拍手を送りたいと思います。さらに、深浦町では屋外たばこ自動販売機の撤去条例に続いて来年度から町内の小・中学校が全面禁煙になり、和歌山県では県内すべての公立学校を全面禁煙にするというニュースも伝わってきています。

 本来であれば、一人の校長や一部の地域の「英断」を待つまでもなく、全国どこに行っても当たり前のことになっていなくてはいけませんでした。子どもたちが毎日生活する場である学校が完全禁煙でなかったこと自体に、世界的にみて遅れていたわが国の禁煙教育の現状を感じざるを得ません。

 しかし、この地域における着実な一歩は大きな流れとなって全国に伝わっていくはずです。その時に、長者小学校や深浦町は歴史にその名を残すことになるでしょう。

 教職員の中には反対の声が残っているかもしれませんが、伊藤校長の「子どもたちの空間で子どもたちのために働いている以上、何を優先しなければならないか」という理念をご理解いただいた上で協力をお願いしたいと思います。

 そして、長者小学校の取り組みを一校だけで孤立させてしまわないために、この機会に市内のすべての小中学校を全校禁煙にするよう、中村市長および教育委員の方々にお願いします。この取り組みには予算は必要ありません。そして、得られるものは、子どもたちの健康的な生活なのです。

(『デーリー東北』 2001.12.15 掲載)

恋をするなら 〜 ジョージ・ハリスンの "過ぎ去りし日々"

 元ビートルズのジョージ・ハリスンが2001年11月29日(日本時間30日)に亡くなりました。1943年2月25日生まれ。享年58歳。一番若いビートルの早すぎる死を悼んで、上記のページに追悼文を掲載しました。死因は喉頭がん、肺がん、脳腫瘍で、その原因が喫煙にあることは誰の目にも明らかであり、彼自身もそれを認めていました。


「第1回 思春期の臨床講習会」報告

 連休中の11月4日(日)に上記のような講習会が東京で開催され、出席してきました。日本小児科医会では、子どもの心の問題に対応するために平成11年より「子どもの心相談医」研修会を開催し、3年間で1,000近い相談医が誕生しています。私も初年度に4日間の講習を受け相談医となりましたが、地域において未だその名に値する仕事ができていないという忸怩たる思いがあります。今回の思春期の臨床講習会は、そのアドバンスド・コースとして初めて企画されたもので、厚労省の「健やか親子21」の目的にも適うものだとのことです。 報告の詳細は上記ページに掲載しましたので、ここではその一部だけ紹介します。

プログラム

1.思春期の性の悩みとその対応 2.若者の性の活性化と増加するSTD・妊娠−小児科医の存在が子ども達の救いになりますように− 3.学校への不適応 4.社会への不適応 5.校医はどうあるべきか

○ 学校への不適応  国立精神神経センター 齋藤万比古先生

 思春期の学校不適応の3つのキーワードは、過剰適応、萎縮、衝動統制の問題です。周囲に対する「過剰適応」が強いほど、ささやかな失敗が容易に大きな挫折になります。また、過剰適応による疲れが癒されないと消耗し、周囲から認めてもらえないと反抗につながります。逆に、周囲から自分を守ろうとして萎縮している典型的な例が「選択性緘黙(かんもく)」です。ADHD(注意欠陥多動性障害)などで衝動統制の問題を持つ「仲間に入りにくい子」たちは、実は人なつっこく仲間を欲しているのですが、裏切られた経験や学業の不振なども重なって、努力の意欲をなくして不登校につながることがあります。疎外感や葛藤から、不安や怒り、助けを求める気持ちが高まり、非行やカルト、援助交際などの「擬似家族システム」に没頭することになり、治療援助システムがこれに置き換わることができれば更正につながります。学校は問題を持つ子どもを「個人」の観点でみるようにして、親を否定せずに問題の出現を「親子の人間としての成長の好機」ととらえて一緒に治療に取り組ませ、担任や学校だけで抱え込まずに他領域の専門家と連携を図る必要があります。

● 「開業医宣言」を読みなおしてみて...

 医療改革をはじめとした小泉改革が大詰めを迎えていますが、医療の中身を考えずに医療費削減と患者負担増だけを迫る改革案は何とかして阻止しなくてはいけません。それは、患者さんのため、ひいては国民全体のためでもあると考えています。患者さん(国民)と医療側とはもともと敵対すべきものではなく、互いにより良い医療を求めていくパートナーであるべきでなのですが、現実にはそうなっていないようです。

 私たちは医師会の一員でもありますが、保険医協会という特定の政党に献金したりしない団体にも属しています。1989年に出された「開業医宣言」は、そういった理念・目標を示すものとして、今でも立派に通用するものですので、ここに紹介しておきます。あらためて読んでみると、まだまだ実現できていないものが多く反省させられます。

 小泉改革については、次号でも取り上げたいと思います。待合室に、紺谷典子氏の新聞記事のコピーを貼っておきますのでご覧下さい。
 「戦争と平和」についても、次号でまた触れるつもりです。

開業医宣言

 我が国の開業医は第一線医療の担い手として、長年にわたり地域住民の医療に貢献してきた。

 いま日本人の平均寿命は大きく延びてきたが、一方、国民生活をとりまく経済、労働、環境などの急激な変化とその歪みは、成人病の増加はもとよりかつては見られなかった心身の疾患をも生み出し、子供から老人に至るまですべての世代を通じて、健康に対する関心と不安が増大している。

 こうした中で開業医師、歯科医師のあり方も問い直され、日常の診療に責任を持つことはもとより、疾病の予防から環境の改善などに至るまでその専門的知識、技術による幅広い対応がつよく求められている。

 同時に近代民主主義の主権在民、人権尊重の思想は、医療における人間関係、医学の進歩と医療の倫理など新しい課題をも提起している。

 これらの期待と要望に応えるためには、患者・住民の求めるところを深く理解し、常に新しい医学・医術を研鑽して、自らの医療活動を省み創造する開業医の姿勢と努力が不可欠である。

 また、わが国は「経済大国」といわれながら、その力が国民には還元されず、逆に国民の努力により築き上げてきた社会保障が、軍事予算拡大やいわゆる「民活路線」の陰で次々に後退させられている。さらに現在、地球的規模での環境破壊や核兵器の脅威など、人類の生存すら危ぶまれる状況も存在している。

 私たちはこれらの現在に立ち向かいつつ、21世紀の医療を担う開業医像をめざして、次の通り宣言する。

1.全人的医療

 私たちは個々の疾患を重視するのみならず、患者の心身の状態、家族、生活環境にも気を配り、全人的医療に努力する。

2.対話の重視

 医療は患者と医師の信頼にもとづく共同の行為である。患者の立場を尊重した対話によって、患者自らが最良の選択を行えるよう、医師は患者に必要な情報や専門的知識、技術を提供する。

3.地域医療

 私たちは住民の身近な存在として、日常診療に責任を持つと同時に、地域の保健、予防、リハビリテーション、福祉、環境、公害問題等についても積極的な役割を果たす。

4.医療機関等の連携

 私たちは最も適切な医療を行うため、診療機能の交流等を通じ他の医師、医療機関等との円滑な連携に努める。同時に他の医療・福祉従事者の役割を重視し、患者を中心とした緊密な協力関係を保つよう努力する。

5.診療の記録

 診療の正確な記録は医師の重要な責務である。療養等に必要な情報の提供に日常的に努めるとともに、患者からの診療情報提供の求めに誠実に応ずる。診療情報の提供に際しては、医師の守秘義務を遵守し、患者の秘密と人権を守る。

6.生涯研修

 私たちは患者、住民が最高の医学的成果を受けられるよう常に医学・医術および周辺学術の自主的な研鑽に努め、第一線医療・医学の創造、実践、発展をめざす。

7.自浄努力

 私たちは、患者や地域住民の信頼を失うような医療行為を厳に戒める。また常に他の批判に耐える医療を心がけ、医療内容の自己および相互検討を行うよう努力する。

8.社会保障

 医療を資本の利潤追求の市場に委ねてはならず、すべての国民が十分な医療・福祉を受けられるよう、社会保障を充実することは近代国家の責務である。私たちは国民とともに社会保障を守り、拡充するため努力する。

9.先端技術の監視

 科学技術の急速な発達は人類に多くの恩恵をもたらす一方、その用い方如何によっては生態系の破壊なども懸念される。私たちは特に人類や地球の未来に影響を与えかねない先端技術に対しては、その動向を監視し、発言する。

10.平和の希求

 人命を守る医師はいかなる戦争をも容認できない。私たちは歴史の教訓に学び、憲法の理念を体して平和を脅かす動きに反対し、核戦争の防止と核兵器廃絶が現代に生きる医師の社会的責任であることを確認する。

○ 12〜1月の休診日、急病診療所、各種教室の予定

 急病診療所の当番はは、12/4 (火)、12/23 (日) 昼、お正月の1/3 (木) 昼、1/13 (日) 昼。次の赤ちゃん教室は1月12日 (土) です。

 年末は29日15時まで診療し、年始は1月4日から通常通りです。お正月に具合が悪い場合は、1/3に急病診療所の当番になっています。また、その他の日もすべて市内の小児科医が当番をつとめています。


発行 2001年12月17日 通巻第68・69号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
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