「第1回 思春期の臨床講習会」報告  八戸市医師会『医師会のうごき1月号』に掲載

久芳康朗

 主催:(社)日本小児科医会
 日時:平成13年11月4日(日)
 会場:東京 日本教育会館一ツ橋ホール

 日本小児科医会では、子どもの心の問題に対応するために平成11年より「子どもの心相談医」研修会を開催し、3年間で1,000名近い相談医が誕生している。私も初年度に4日間の講習を受け相談医となったが、地域において未だその名に値する仕事ができていない。今回の思春期の臨床講習会は、最近の思春期の子ども達の社会的に未成熟で自己中心的、無責任な行動などが問題になっている中で、子どもの相談医制度の advanced course として初めて企画されたものであり、厚生労働省の「健やか親子21」の目的にも適うものだとのことである。

1.思春期の性の悩みとその対応

日本家族計画協会 北村邦男

【要旨】思春期の子ども達のために開かれた家『オープンハウス』における、「思春期ホットライン」などの相談活動の現場で直面する思春期の性の悩みとその対応の例が紹介された。20歳未満の悩みは、男子では性器の大小、包茎、自慰、射精が主で、年齢による差はあきらかではない。女子では月経、病気、妊娠、緊急避妊、性感染症(STD)が主なもので、年齢が上がるにつれ妊娠や緊急避妊が増加している。情報過多の時代にもかかわらず相談内容には変化がなく、子ども達は悩む必要のないことで悩まされているのが現状である。

2.若者の性の活性化と増加するSTD・妊娠 −小児科医の存在が子ども達の救いになりますように−

性と健康を考える女性専門家の会 堀口雅子

 I. 若者の性行動、II. STD、III. 妊娠、IV. 避妊指導と性感染症予防の指導、V. 婦人科外来の問診:月経のトラブルで受診した子ども達へ、VI. 性教育は:何時から・何処で・誰が・どのように・何時まで、VII. 外来でのその他の相談、VIII. 外来診療の実際

【要旨】若者の性行動は活発化しており、初体験は男は中2、女は中3から増加し、低年齢化および性体験率の増加傾向は続いている。性教育、特に男子の性教育が遅れている。避妊は少しは分かっていても、STDは全く理解されていない。人工妊娠中絶の総数は減少しているが、十代の中絶は急増している。経口避妊薬(低用量ピル)や新しい子宮内避妊具(IUD)はもっと見直されるべきである。続発性無月経は3か月以上続くと治療に時間がかかるため、心の問題を含めた小児科、婦人科、精神科の連携が必要である。小児の慢性疾患の患者が合併症のある妊娠、中絶、STDを引き起こしており、女性としての視点からの注意が必要である。

3.学校への不適応

国立精神神経センター国府台病院 齋藤万比古

 I. 思春期とは (1) 思春期の年代の区切り方 (2) 思春期の心の特徴 (3) 青年期の心の特徴、II. 思春期の子どもと環境 (1) 子どもと家族 (2) 子どもと学校および仲間集団、III. 思春期の学校不適応の構図 (1) 過剰適応とその挫折と消耗、そして反抗 (2) 萎縮、および受動攻撃的反抗 (3) 衝動統制の問題と孤立 (4) 疎外感と擬似家族システムへの没頭、IV. 学校で生じやすい諸問題 (1) 心身症的身体症状 (2) 不安・恐怖 (3) 強迫症状 (4) うつ状態 (5) 問題行動 (6) 精神分裂病 付) 軽症発達障害児(ADHD、高機能自閉症、境界知能)の学校不適応、V. 思春期学校不適応への処方箋 (1) 現代の子どもの特徴を理解した対処法を工夫する (2) 親の問題処理能力を評価し、親を可能な限り治療者の一員とする (3) 学校には情緒・行動の問題を持つ子どもを個人として見てもらう (4) 必要な場合専門医療との連携を行う

【要旨】思春期の学校不適応の3つのキーワードは、過剰適応、萎縮、衝動統制の問題である。過剰適応が強いほどささやかな失敗が容易に大きな挫折になり、過剰適応による疲れが癒されないと消耗し、周囲から認めてもらえないと反抗につながる。逆に、周囲から自分を守ろうとして萎縮している典型的な例が「選択性緘黙」である。ADHD(注意欠陥多動性障害)などで衝動統制の問題を持つ「仲間に入りにくい子」たちは、実は人なつっこく仲間を欲しているが、裏切られた経験や学業の不振なども重なって、努力の意欲をなくし不登校につながる。疎外感や葛藤から、不安や怒り、助けを求める気持ちが高まり、非行やカルト、援助交際などの擬似家族システムに没頭することになる。治療援助システムがこれに置き換わることができれば更正につながる。学校は問題を持つ子どもを個人の観点でみるようにして、親を否定せずに問題の出現を「親子の人間としての成長の好機」ととらえて一緒に治療に取り組ませ、担任や学校だけで抱え込まずに他領域の専門家と連携を図る必要がある。

4.社会への不適応

千葉大学教育学部 羽間京子

 I. 非行の現状 (1) 戦後第4のピークと呼ばれる今 (2) 「非行の低年齢化」と呼ばれる状況について、II. 少年の薬物乱用の現状 (1) 薬物乱用の広がりと非行名別内訳 (2) 性別、III. 非行理解のための3軸−精神病理、精神発達、非行カルチャーの取り入れ度−、IV. 思春期の心理と非行少年の心理的特徴−共通する点、異なる点−、V. 発達加速度現象−前思春期の浸食−、VI. 発達障害と非行、VII. 非行少年の生育環境−特に被虐待体験について−、VIII. 児童期の子どもの周囲にいる大人のできうること (1) 早期発見について (2) 予防について

【要旨】保護監察官としての経験を元に、非行の現状と特に被虐待体験について解説された。非行理解のために、分裂病・うつ病などの精神病理、思春期の発達のどの段階にあるかという精神発達、闇の不文律をどの程度身につけているかという「非行カルチャーの取り入れ度」の3つの軸で考えていく必要がある。思春期の子は悩んでいるが、非行少年は自分の中に悩みを抱えることすらしないというのが両者で最も異なる点である。保護観察者の約6割に何らかの被虐待体験があり、大人に大事にされた体験に乏しいため自分が大事な存在であると思えず、自分の体だけでなく他人も大事にできない。虐待が発見されないまま放置されるのを防ぐために、小児科医の役割が最も重要である。

5.校医はどうあるべきか

日本医師会 山田統正

 I. 学校医活動 (1) 学校医活動の原点 (2) 学校医の職務、II. 学校保健をめぐる諸情勢の変化 (1) 少子化・家族の変化等 (2) 疾病構造の変化 (3) こころの健康問題 (4) 生涯保健の立場からみた地域保健活動との連携 (5) 健康教育の重視、III. 学校精神保健の活性化、IV. 21世紀の学校保健、V. 日本医師会の学校保健の取り組み

【要旨】文部科学省では「生きる力」を育成するためにこころの健康の重視を掲げ、その中で健康教育における学校医の役割に期待が高まっているが、学校医側の対応は不十分である。特に、こころの健康問題のうち、(1) 不登校 (2) いじめ (3) 学級崩壊 (4) 薬物乱用の4点を重視している。以下、日医としての取り組みが解説された。日医学校保健委員会の答申も参照のこと(日医ホームページに掲載)。

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