■ くば小児科クリニック 院内報 2003年11月号


院内版感染症情報 〜2003年第45週(11/3-11/9)


	 	2003年 第31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45週
インフルエンザ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
咽頭結膜熱        0  0  0  0  2  2  0  1  0  1  1  0  2  2  0
A群溶連菌咽頭炎  0  0  0  0  0  1  0  0  1  0  0  0  0  0  0
感染性胃腸炎      4  4  2  2  3  3  1  2  5  6  2 10  2  5  1
水痘              1  4  1  1  1  1  0  1  0  0  2  0  2  0  0
手足口病          6  3  2  2  2  3  5  4  5  4  1  1  1  0  0
伝染性紅斑        0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  0  1  0  1
突発性発疹        0  1  1  0  2  1  1  0  0  0  1  0  0  1  2
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  2  1  0  0  1  1  0  1  0  0  0  0  0  0
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  1  0  0  0

☆ いろいろな種類の「カゼ」が増えてきました

 おおよその傾向は先月と同様で、咳が多くなる風邪とウイルス性胃腸炎が主ですが、夏から続いているアデノウイルスと考えられる「熱が5日出るかぜ」や、一部で水痘(水ぼうそう)や伝染性紅斑(リンゴ病)などもみられています。麻疹は今年はゼロが続いていますが、県内では弘前市での発生なども伝えられており、「はしかゼロ」に向けた取り組みを更に進めていきたいと思います(1歳のお誕生日に麻疹ワクチンを!)。

○ ウイルス性胃腸炎のときに ...

 腹痛、嘔吐、下痢などの一連の症状を引き起こす「お腹にくるカゼ」(俗称)は、ほとんどがウイルス性で、食べ物からくる細菌性のものは稀です。夏かぜではエンテロウイルスやアデノウイルス(通年性)などがありますが、毎年この時期の秋から冬にかけて、初冬に流行する SRSV(小型球形ウイルス)と厳冬期に流行するロタウイルスが、保育園などで小さい子を中心とした流行のピークを迎えます。

 症状は同じように腹痛や頻回の嘔吐から始まって、2日目以降は下痢が主体となっていきます。熱が出ることもありますが、何日も長引かないのが普通です。一般に、この時期のSRSVは軽症のことが多く点滴の必要はほとんどありませんが、真冬のロタウイルスは急激に脱水が進行して点滴や入院が必要になる場合もあり注意が必要です。

 特別な治療法はないのですが、吐き気のある最初の一晩に「飲ませては吐く」ということを繰り返すとかえって脱水が進んでしまいます。まずは一晩我慢して、水分も最初はとらせないか口を湿らせる程度にして眠らせてあげて下さい。翌日からは、お腹を休めながら水分、お粥というように再開していき、回復と共に食事を戻していってあげるようにしましょう。処方される整腸剤はあくまで補助的な役割です。

<保育園におけるノロウイルスの集団発生について>

 ノロウイルスというのは聞き慣れない名前なのですが、SRSVは1種類のウイルスではなく、その主要なウイルスである「ノーウォーク様ウイルス」を今年から「ノロウイルス」と呼ぶようにになったのです。以下はSRSV全般についての説明の続きですが、このウイルスの特徴は、一人一人順番にうつっていく「感染性胃腸炎」の形と、主にカキなどの魚介類を食べて発症する「食中毒」の2つの発症パターンがあることです。全国各地で報道されているような、保育園などで嘔吐や下痢の子が急に増えたときには、病原体は何か、細菌かウイルスか、SRSVだとすると食中毒かどうかということが問題になりますが、決め手は「同時性」で、感染性胃腸炎の場合はある日急に増えたように見えても、実はその前から少しずつ流行が始まっているのに対して、食中毒の場合は短い期間に一度に発症し、食べ物にウイルスが検出されれば確定します。特別な隔離は必要ありませんが、便や手指を介した接触感染と、吐物が乾燥したものの飛沫感染が主な感染ルートですので、おむつ交換の後に石けんを用いた手洗いを十分に行うようにしましょう。
 余談ですが、宮城県の方言ではドロっとした吐物のことを「ノロ」と言うようです。

・ノロウイルスの情報 http://www.pref.aichi.jp/eiseiken/67f/nlv.html

インフルエンザの予防接種はなるべく年内に!


● 神経芽細胞腫のマススクリーニング、休止へ

 この問題は先月までの宿題になっていたもので、実は一口で説明できない難しさがあるのですが、休止時期が目前に迫ってきましたので、何とか理解の助けになるように情報をお伝えしたいと思います。

○ 神経芽細胞腫とは

 お腹や胸などの神経節にできる小児がんで、発生率は約1万人に1人。1歳以上で発症した場合、悪性であることが多いので、1984年より生後6ヶ月児を対象に尿中の特有の物質を測る集団検診(マススクリーニング)を実施していおり、毎年約100万人が検査を受けて約200人の患者さんが発見されています。

 神経芽細胞腫のような胎児期に発生するがんの最大の特徴は、治療せずに経過を見守るうちに自然に治る場合も少なくないことです。

○ マススクリーニングの問題点

 このような集団検診の効果は、その病気による死亡率の低下で判定するのですが、最近、海外の研究で死亡率の低下がみられなかったというデータが発表されました。国内の報告でも死亡率の低下がみられたというものとそうでないものとがあり一致した結果は得られていません。また、検診開始後に病気の発見率が2倍程度に増えていることから、発見されずに自然に治っていたものまで「過剰に診断していた」可能性が指摘されていました。

 さらに、結果的に治療の必要がなかった患者さんに、負担の大きい手術・検査を行っている可能性や、治療による合併症もみられたこと、治療せずに経過をみる場合でも子どもや両親への肉体的、精神的負担をかけていたことも否定できず、今回、厚生労働省で検討をして「いったん休止させることが適当」という報告書が出されたのです。同時に報告書は、有効な集団検診のあり方などを継続して検討するよう求め、適切な実施方法が確立されれば再開させる可能性を残しているのですが、実際には次のステップが示されないまま各県で休止(実質的には中止?)になってしまいました。

○ 検査は今年度いっぱいで休止になります

(1) 今後は、平成15年8月31日までに出生した子のうち、希望者のみ実施
(2) 検査は、平成16年2月末日で終了する

○ やめてしまって大丈夫なのか?

 しかしながら、今まで続けてきた検査をいきなりやめてしまって、うちの子は大丈夫なのかという当然の疑問がわいてくると思います。これについては明確に説明する能力を持ちません。

 専門医の見解では「現行のスクリーニングで見つかる神経芽細胞腫の中で悪性は2〜3割、それ以外は自然退縮する良性腫瘍」「1歳以降に臨床症状で発見される予後不良のタイプは、いずれの時期にスクリーニングしても発見することは難しい」「予後不良例は、遺伝子解析などから良性タイプと全く違う発生過程をとっているので、最初良性と思われたものが途中で悪性なものに変化する可能性はほとんどない」「スクリーニングで見つかった疑い例について、きちんとした基準を設ければ過剰治療を避けられる可能性は十分ある」といったもので、積極的に「休止」を支持するものではありません。日本マススクリーニング学会でも、時期を1歳半にずらした臨床研究を提案していますが、それも実現されないまま事業自体が休止されることは、混乱を招きかねないやり方だと感じています。


● 11〜12月の休診日、急病診療所、各種教室、相談外来の予定

 11月後半から12月は暦通りの診療となります。年末は12月30日午前まで。急病診療所当番は11月2日 (日) 昼、12日 (水) 夜、23日 (日) 昼の3回で、12月の当番は未定です。次回の赤ちゃん教室は1月17日 (土) です。

 「育児相談・子どもの心相談」(初回無料)、「禁煙外来」(ご家族だけでなく本人の喫煙についての相談も可)、いずれも水曜午後、土曜午後、平日夕方など時間をとって話せるときに相談可能です。(予約制)


発行 2003年11月14日 通巻第92号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
TEL 0178-32-1198 FAX 0178-32-1197
webmaster@kuba.gr.jp
http://www.kuba.gr.jp/


前号 次号 院内報トップ くば小児科ホームページ