■ くば小児科クリニック 院内報 2002年2月・3月合併号

 今回も1月号から2か月間隔があいてしまいました。この4月で開院6周年となりますが、医療を巡る環境は厳しくなる一方です。

 昨年末に今回の診療報酬改定に関する方針が決まったとき、小泉首相は「ほら、三方一両損、やればできたでしょ♪」とルンルン※していましたが、あれを見たとき、自分が首相としてその生活を守るべき国民が現状よりも満足できない医療しか受けられなくなることで大喜びしているなんて、国民の生活に対する想像力が致命的に欠如しているのではないかと暗澹たる気持ちになりました。(ちなみに私は最初から小泉首相を支持していません。それは私が医師会員の「抵抗勢力」だからではなく、本当に市民のため国民のための政治とはほど遠いその姿勢に危機感を抱いたからであり、それが間違っていなかったことはこの1年間の政治をみればおわかりいただけると思います。)→つづきは4ページに

※死語注意

 まずは、今年のインフルエンザ流行の総括から…。


院内版感染症情報 〜2002年第03週(3/18-3/24)


   2001-2002年 第50 51 52 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12週
インフルエンザ    0  0  0  0  0  0  0  3 54 62 86 52 25  7  4
A群溶連菌咽頭炎  1  0  0  0  1  1  2  1  2  0  0  2  0  0  5
感染性胃腸炎     18 14  6  7  6 13 14  9 16 13 23 18 17 17 14
水痘              0  3  0  2  5  4  0  0  1  0  3  0  2  1  0
手足口病          0  0  0  0  0  0  2  0  0  0  0  0  0  0  0
伝染性紅斑        3  1  1  0  0  2  7  3  1  0  1  1  1  3  3
突発性発疹        1  3  3  0  4  0  2  6  1  1  0  1  1  1  1
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    5  3  1  1  4  0  3  0  0  0  2  1  2  1  2
 インフルエンザは1月下旬から流行が始まり、2月中旬にかけてピークに達し、3月に入ってすっかり下火になりました。おそらく春休みあけでほぼ終息かと思われます。シーズン中に流行の型が変わったようで、2回かかった子も何人かいました。

 今シーズンは、当地区では小学生の目立った流行がなかったために全体に小規模な流行におわりました。また、重症化する子が少ない印象がありましたが、全国的にみればやはり脳炎・脳症などもみられていたようです。重症化しなかった要因として、予防接種や抗ウイルス薬の影響は正確には評価できませんが、ある程度はあったはずだと思います(接種したのに罹った子もいらっしゃいました)。しかし、重症化しなくても実際にかかった方にとってみればつらい1週間だったことでしょう。

 来年からは、現在大人で使われている新しい抗ウイルス薬(子ども用のこな薬)が小さい子でも使えるようになるはずなので、少し治療も変化してくるかと思われますが、予防接種が予防法の第一であることには変わりありません。のど元過ぎて熱さを忘れないように、シーズンの終わりに総括しておきます。来シーズンも10月から接種開始になる予定ですので、近づきましたらまたお知らせします。

 ロタウイルスを中心とするウイルス性胃腸炎も、毎年インフルエンザと同じ2−3月に流行します。こちらはまだ多めで推移していますが、何度か書いているように、嘔吐のみられる最初の半日から1日を過ごすことができれば、その後の下痢は数日から1週間残りますが食事を調節することで自然に治っていきます。

 その他には、この時期に多い溶連菌感染症も年長児を中心に流行しています。保育園ではおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、水ぼうそう(水痘)、リンゴ病(伝染性紅斑)の小規模な流行が続いているようです。

 3月中旬から花粉症が本格化しています。今年は例年より早めに推移するのかもしれませんが、4月いっぱいは残るものと思われます。季節の変わり目で喘息のコントロールも乱れがちな時期に入ってきました。


● 日本医師会・乳幼児保健講習会の報告から

 2月17日 (日) に東京で開催された標記の講習会に出席して勉強してきために、八戸えんぶり一斉摺りを見逃してしまいました。

 メインのシンポジウムは、「産婦人科医・小児科医地域連携事業の普及・発展をめざして−出生前小児保健指導(プレネイタル・ビジット)モデル事業−」という内容でしたが、こちらはホームページに掲載しておきましたのでもし興味があればご覧下さい。

 講演では、今まさにホットな話題である教育改革についてとりあげられました。下記は八戸市医師会の会報に掲載したものですが参考にしてみて下さい。一部のマスコミや石原都知事のようなエリート主義者は受験のための「学力低下」を盛んに喧伝してこの改革を頓挫させようとしていますが、実際にいま問われているのは学校が私たちに何をしてくれるのかではなく、私たちが地域の学校、地域の子どもたちをどう育てていくのかということなのです。現実的な問題が山積しているにせよ、基本的にはこの改革を地域から支えていきたいと考えています。

「今の日本の教育を考える 子どもたちに21世紀を託すために」

寺脇 研(文部科学省大臣官房審議官)

 学校5日制(週休2日制ではない)の実施を前にして、教育改革の真の狙いについて以下のような説得力のある熱弁をきくことができた。

 教育内容の3割削減というのは伝え方を誤った。各学校に自由裁量権を3割与えたということであり、習熟度別教育やそれぞれの地域で必要な教育内容(地域の産業や伝統など)を学校や教育委員会の裁量で取り入れることができる。各地域の教育委員には是非とも医療関係者が入って欲しい。学校医もご意見番として学校にもの申していただきたい。

 学校5日制はこれまでのゆとり教育とは全く違う。学校は地域のものであり、地域が元のままだと学校は変わらない。学校を変えることにより、地域や家庭が変わるように水を向けている。学校をどうするかをみんなが考えなくてはいけない。日本の親や地域社会に底力はある。あとはやる気だけだ。行政は地域社会が受け皿になるようなインフラの整備には力を入れる。

 沖縄は経済的には貧しいが、一番理想に近い。何よりも大事なのは、地域の中で子どもから老人まで健やかに楽しく生きることだ。

 女子少年院を見学したところ、日本中のどこの中学校よりも子どもたちの表情が明るい。そこでは全ての大人が自分たちを愛し、育てようとしてくれる。脱走しようとする子はほとんどいない。塀は外から変な大人が入ってくるのを防ぐためにある。これは一体どういうことか。

 学力は学校だけでつけるものではない。ゆとり教育で最低レベルの学力は上がる。一部のエリートのことだけを考えていれば良いわけではない。全ての子どもにより良い教育をと考える立場は教育も医療も一緒だ。

 今の大学生は社会が求めている力がついていないことに気づき真剣に悩んでいる。大学生の望んでいる3つの力、すなわち子どもたちが21世紀を生きる力とは、

 (1) 自分の考えを持つ力
 (2) 自分の考えをちゃんと伝えられるコミュニケーション能力
 (3) 意見の違いを調整し相容れていく能力

であり、これらを身につけていくのが総合的学習だ。

 もう一度家庭と地域と学校とで子どもをみる社会にしていくのか、いま大きな岐路に立たされている。この改革が受け入れられずに何もかも学校に任せるということであれば、学校7日制にして中央集権的教育に戻さなくてはいけない。


● 日本の医療に関する「大誤解」

× 日本は医療費が高く、効率が悪い
 日本の医療費は先進国の中では低い方であるにもかかわらず、世界一の長寿と新生児死亡率の低さを実現している。すなわち、日本の医療費は安く、効率は高い。しかし、医療の現場での質には問題が多く、これを高めるための方策が必要。つまり、医療費を抑えて締め付けるのではなく医療の質を高めるための積極的な政策が望まれている。

× 不況の中で医者だけが丸儲けしている
○ 開業医の月収二百数十万円の報道は間違い。事業収入はいわゆる「月収」ではなく、ここから更に借金の返済や拡大再生産のために必要な資金を内部留保しなくてはいけない。歯科医院では収入が減り続けている。地方の自治体病院は90%が赤字で、診療報酬が切り下げられれば深刻な状況になり不採算部門の整理や医療機関の統廃合は避けられない。この間、医療機関は人件費を削って減収を補おうとしているのが実態。ちなみに、よく知られているように小児科は最も収入が少ない。なお、医療業界で唯一高い利益を上げ続けているのは製薬会社。

 ある試算によると、今回診療報酬が2.7%引き下げられたことにより、収益(収支差額)は診療所で7〜13%(整形外科では20%)、病院では50%以上も減少し、中小規模病院の倒産が増加するのではないかと懸念されます。都市部の歯科も相当数の閉院や移転が予想されています。その上に来年4月の社保本人(サラリーマン)3割負担による受診抑制が加われば、日本の医療機関はこの先2年間で体力を使い果たし、かなり荒廃した状況になるのではないかと危惧しています。

 厚生労働省では、これを「淘汰」と表現していますが、医療機関は民間経営であっても決して個人のものではなく、地域の社会資本の一部であると私たち医療関係者は自負してきました。

 この政策の行き着く先に、国民の望むような医療がいつでも受けられる姿が想像できますでしょうか。

× 医療に市場原理を導入すると、医療の質が高まりコストが安くなる
○ 医療に市場原理を導入すると、自由な受診や医療行為自体が制限され、医療の質は下がる

 市場原理主義者(今の改革を進めようとしている人たち)は、米国の医療がグローバルスタンダードだと思っているようですが、世界中で医療に全面的に市場原理を導入しているのは米国だけです。そして、米国の医療の実態は、4000万人の無保険者の存在でわかるように貧富の差によって受けられる医療が決まってくる世界です。(このことは以前にもお伝えしました。)

× 出来高払いは医者が儲けのために検査したり薬を出して医療費が上がり続けるので、包括払いにする必要がある
○ 目の前の患者さんからいかにしてお金を多くとるか考えて診療している医者はいない。いかにして検査せずに、受診回数を少なく、薬の種類も少なくてすむように考えながら診療している。薬価差益は現在ほとんどなく、院外処方では無関係。出来高と包括性の議論は別の次元の問題。

× 医療の抜本改革が進まないのは、医師会など抵抗勢力が利益を守ろうとしているため
 高齢者医療費制度新設などの抜本改革案が厚労省、医師会、保険者の三者で真剣に議論がなされていたのに、小泉改革で唐突に市場原理の導入などの(財政帳尻会わせ)「改革」案が財務省主導で横やりを入れてきたために、抜本改革の論議がストップしてしまったのが実態。

 何度もお伝えしているように、マスコミは現状を国民に正しく伝えようとしているとは思えません。この院内報をきっかけにして、皆さんが自分自身で情報を収集し自ら判断をして下さることを希望します。


● 麻疹(はしか)の撲滅運動をすすめています

 日本小児科医会や日本医師会では、麻疹の撲滅運動をすすめております。この院内報にも何回か書いたことがあるように、日本は先進国では最悪の麻疹汚染国で、各地で流行が繰り返され、年間数十人の子どもが命を落としています。幸い八戸では自然の流行はみられないものの、帰省などで外部から持ち込まれて流行することが繰り返されています。

 院内に素敵なポスターを掲示しておきましたのでご覧下さい。

 麻疹対策は、予防接種に尽きます。麻疹のように「中間宿主がなく人から人にしかうつらない」感染症で「有効な予防接種がある」ものは、天然痘のように世界中から根絶することが可能なのですが、日本の現状では絶望的です。麻疹を撲滅するためには、

 1)1歳を過ぎたらできるだけ早く予防接種を受ける。
 2)集団生活(特に保育園!)に入る前に、必要な予防接種が終わっているか必ずチェックする。1歳前に入園する子は、1歳を過ぎたら時期を逃さず接種して下さい。
 3)諸外国のように麻疹を2回接種できるように国に働きかけていく。免疫があるのに中高生や成人で流行するケースが増えています。


● 予防接種に関する情報を、さらに2つ

1)風しん予防接種の対象者変更(広報はちのへより)

 以前お伝えした、低接種率の年齢層への対策が4月からとられることになりました。今回は八戸市の情報ですが、他の市町村でも同様のはずですので広報をチェックしていて下さい。以下、八戸市の広報から引用します。

 これまでは中学生が接種対象者でしたが、平成14年度からは次のとおり変更になります。

 対象者  昭和54年4月2日〜昭和62年10月1日生まれの人
 実施期間 平成14年4月1日〜平成15年9月30日
 接種場所 各受託医療機関(「わが家の健康カレンダー」参照)
 接種料金 無料
 持参するもの 健康保険証など生年月日を確認できるもの
        ※予診票は健康増進課、各受託医療機関に準備

 健康増進課または各受託医療機関にある「風しん予防接種のお知らせ」を読み、効果や副作用についてよく理解してから、健康状態のよいときに接種しましょう。なお、90か月未満の人に対する風しん予防接種は、従来通りです

 風しんは、妊娠初期に感染すると難聴や奇形など、胎児に深刻な影響を与えるおそれのある感染症です。風しんにかかったことがある人でも、これまで一度も風しん予防接種を受けたことのない場合は、男性も女性も接種しましょう。

問い合わせ 健康増進課【内線291】

2)小学校のBCGが廃止の方向へ?

 報道でご覧になったかと思いますが、今年度すぐにではありません。現状での廃止には小1のツ反陽性率が低い点など問題も多いことを以前この院内報で触れたことがありましたが、詳しくは次号に掲載します。


● ご覧になっていただきたい記事、ページの紹介

日本医師会「生命(いのち)を見つめる」フォトコンテスト
http://www.med.or.jp/photo/second/

村上春樹「共生を求める人々、求めない人々」(サリン事件7周年特別寄稿)
http://www.kyodo.co.jp/kyodonews/2002/aum/

あおいもりを守るアイドリング・ストップ(エコ・ナビ・あおもり)
http://www.pref.aomori.jp/kankyo/econavi/

 ブルーナのイラストの素敵なステッカーももらえます。
 もし、日本中のすべての自動車が、毎日10分間のアイドリングをストップしたら、こんなに減ります(上記ページより引用)。
 燃料消費量:約34億リットル、200リットルのドラム缶に換算して、約1,700万本
 二酸化炭素排出量:約224万トン(炭素換算)、日本人一人あたりに換算して、約85万人分


○ 3〜4月の休診日、急病診療所、各種教室の予定

 3月〜4月は臨時の休診はありません。急病診療所の当番は、3/21 (祝) 昼、3/30 (土) 夜、4/9 (火) 夜、4/20 (土) 夜です。GW中も暦通りの診療になりますが、連休中に急病診療所の当番がもう1回入る予定です(未定)。次回の赤ちゃん教室は5月18日 (土) です。


発行 2002年3月25日 通巻第71・72号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
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