「平成13年度 乳幼児保健講習会」報告 八戸市医師会『医師会のうごき○月号』掲載

くば小児科クリニック 久芳康朗

 日時 平成14年2月17日 (日)
 会場 日本医師会館大講堂(東京)
 主催 日本医師会

 乳幼児保健講習会は「保育園嘱託医、幼稚園医の組織化を推進し、地域医療の一環として行う乳幼児保健活動を円滑に実践するために必要な知識を修得する」ことを目的に平成6年より開催されており、今回は「子どもが心身ともに健やかに育つための育児支援を考える」をテーマにシンポジウムおよび講演が行われた。その詳細については日医雑誌に掲載される予定だ。

シンポジウム

「産婦人科医・小児科医地域連携事業の普及・発展をめざして−出生前小児保健指導(プレネイタル・ビジット)モデル事業−」

 出生前小児保健指導は、妊産婦の育児不安の軽減等に資するため産科医と小児科医の連携を図ることを目的に平成4年度から国庫補助事業として実施されてきたが、その進捗は十分ではなく平成11年度には8市町で実施されているに過ぎない。その原因として、産婦人科医と小児科医の連携のまずさなどが指摘されている。しかし「健康親子21」においてもその必要性が指摘されており、平成13年度には地域の実情に応じて創意工夫を図りその成果を評価することを目的に、全国46か所(国の補助23・日医の補助23)でモデル事業が実施された。

 シンポジウムでは帯広市・十勝医師会、岩手医科大学医師会、東京都港区医師会、姫路市医師会、丸亀市医師会、大分県医師会、東京都小石川医師会の7地区から事業の実際とその結果が報告された。年間出生数は大学の400例から県医師会の10,000例まで幅があり、相談例数も7例から164例まで様々だった。実施にあたって、これまで妊婦や産科・小児科医の間でも当事業の認知や理解が不足していた状況をふまえて、マニュアルの作成や研修会の実施、母子手帳への折り込みや広報・マスコミの利用、母親学級への出張などの様々な工夫が実施されたが、実際に受診に結びつくためには「産科医の一言」の影響力が最も大きく、産科医の理解と協力が何よりも重要であることが報告された。妊婦が直接小児科を受診するルートを採用した地域でも上手く機能しておらず、神経科・心療内科医が参加した地域でも実際の利用例はなかった。

 相談内容としては、先天奇形や血液型不適合、妊娠中の薬物服用など専門的なものが多かった地域と、育児一般や上の子への対応などの基本的な指導が主だった地域に分かれたが、その原因については検討されなかった。

 大分県では唯一全県での事業として実施されたが、妊婦が実際に出産して子育てをする地域を考えると、できるだけ広域で実施しないと実をあげられないことが強調された。

 受け入れる側の小児科には、働いている妊婦や父親が受診しやすいような時間帯の配慮だけでなく、小児科医自身の質的向上が強く求められた。産科医と小児科医の間で説明の内容に食い違いがみられると支障を来すことから、小児科医は産科医の取り扱いに異論をはさまずに妊婦へのエモーショナルサポートに徹することが求められた。

 また、以前から指摘されていたように育児不安のピークは1か月未満にあり、出生前では赤ちゃんを産んでみないと実感がわかず質問がほとんどないことから、出生後の指導まで含めた事業が複数地域で実施され、名称を出生前後(ペリネイタル)に変えるべきとの意見も出された。小石川医師会では、新米ママ訪問や小児科医による子育てセミナーを実施してきた基盤の上にこの事業を組み合わせることで、地域全体で育児相談に乗れる小児科医がいるという雰囲気を生み出すことに成功しており、上滑りにならずに母親が求めているものに対して目に見える形で応えていくことの大切さを感じた。

 今回の結果は平成14年度中に評価され、厚労省が日医とも相談の上で平成15年度以降の方針を決定することになるが、まだまだ地域によって温度差があり、これまでの二の舞にならないよう地域における更なる取り組みが求められた。継続性を持たせるための費用負担や診療報酬の問題などは今後の課題とされた。

 青森県内には今回のモデル事業に参加した地域はなく、今後さらに産科医と小児科医の協力・連携体制を密にしていく必要性を感じた。

講演

1) 「今の日本の教育を考える 子どもたちに21世紀を託すために」

寺脇 研(文部科学省大臣官房審議官)

 学校5日制(週休2日制ではない)の実施を前にして、教育改革の真の狙いについて以下のような説得力のある熱弁をきくことができた。

 教育内容の3割削減というのは伝え方を誤った。各学校に自由裁量権を3割与えたということであり、習熟度別教育やそれぞれの地域で必要な教育内容を学校や教育委員会の裁量で取り入れることができる。各地域の教育委員には是非とも医療関係者が入って欲しい。学校医もご意見番として学校にもの申していただきたい。

 学校5日制はこれまでのゆとり教育とは全く違う。学校は地域のものであり、地域が元のままだと学校は変わらない。学校を変えることにより、地域や家庭が変わるように水を向けている。学校をどうするかをみんなが考えなくてはいけない。日本の親や地域社会に底力はある。あとはやる気だけだ。行政は地域社会が受け皿になるようなインフラの整備には力を入れる。

 沖縄は経済的には貧しいが、一番理想に近い。何よりも大事なのは、地域の中で子どもから老人まで健やかに楽しく生きることだ。

 女子少年院を見学したところ、日本中のどこの中学校よりも子どもたちの表情が明るい。そこでは全ての大人が自分たちを愛し、育てようとしてくれる。脱走しようとする子はほとんどいない。塀は外から変な大人が入ってくるのを防ぐためにある。これは一体どういうことか。

 学力は学校だけでつけるものではない。ゆとり教育で最低レベルの学力は上がる。一部のエリートのことだけを考えていれば良いわけではない。全ての子どもにより良い教育をと考える立場は教育も医療も一緒だ。

 今の大学生は社会が求めている力がついていないことに気づき真剣に悩んでいる。大学生の望んでいる3つの力、すなわち子どもたちが21世紀を生きる力とは、

 (1) 自分の考えを持つ力
 (2) 自分の考えをちゃんと伝えられるコミュニケーション能力
 (3) 意見の違いを調整し相容れていく能力

であり、これらを身につけていくのが総合的学習だ。

 もう一度家庭と地域と学校とで子どもをみる社会にしていくのか、いま大きな岐路に立たされている。この改革が受け入れられずに何もかも学校に任せるということであれば、学校7日制にして中央集権的教育に戻さなくてはいけない。

2) 「子どもの問題(児童虐待等)に対する日本医師会の取り組み」

雪下國雄(日本医師会常任理事)

 虐待の報告件数は、平成12年までの10年間で17倍に増加している。英国でも同様であり、10年で20倍になっている。医療機関から報告されたものは平成11年には約5%だが、何らかの形で医師が関与しているのはその数倍あるはずであり、医師に対する世間の期待も大きい。平成12年に虐待防止法が制定され、医師に早期発見の努力義務が課せられ守秘義務は外された。

 医療機関報告例は年齢構成が異なり、63%が3歳未満で、0歳児のうち生後半年までが8割を占めた。性差は男児が多く、思春期を過ぎると女児の性的虐待・心理的虐待が多くなる。科別では小児科が60%で、精神科では心理的虐待やネグレクト、脳外科や整形外科では身体的虐待、産婦人科では性的虐待が多かった。主たる虐待者は実母が半分、実父母で8割を占めた。以下、虐待例の詳細な分析が報告された。

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