「平成15年度 乳幼児保健講習会」報告 八戸市医師会『医師会のうごき』2004年*月号掲載

くば小児科クリニック 久芳康朗

 日時 2004年(平成16年)2月15日(日)
 会場 日本医師会館(東京)
 主催 日本医師会

講演

(1)「少子化社会の教育」 西村和雄(京都大学経済研究所教授)
(2)「次世代の健康問題と予防医学の将来展望」 高野 陽(東洋英和女学院大学人間科学部教授)
(3)「子ども予防接種週間について −特に麻しんの予防接種率の向上を目指して−」 柳田喜美子(日本医師会常任理事)

シンポジウム 「楽しく子育てができる活力とやさしさに満ちた地域社会づくりを目指して」

(1)「これからの乳幼児保健 −健診を中心として−」 藤森宗徳(千葉県医師会長)

 健診のシステムは地域によって様々な形式があり得るが、千葉市では、集団健診から個別健診へという流れの中で、政令市への移行に伴い、区単位の保健センターにおける集団健診とかかりつけ医による個別健診の連携を進めてきた。具体的には3〜6か月と9〜11か月の2回の乳児個別健診に加えて、4か月で集団健診とツ反・BCGを実施し、1歳6か月児と3歳児健診では歯科や保健婦の問診・指導などを集団で行い、内科健診は個別に医療機関を受診するシステムになっている。

 また、千葉県では健診は県内どこでも受診可能で、約半数の自治体では全国どこで健診をしても委託料を払うなど独自の配慮で注目されており、財政力によって乳児健診を3回あるいは4回実施している自治体もある。

 健診の意義も、異常の発見から健康の維持・増進へと変化し、母親に自信をつけさせる育児支援が中心的な課題になってきている。

(2)「予防接種ガイドライン等の改訂とこれからの予防接種の動向」 神谷 齊(国立療養所三重病院長)

 2003年11月に予防接種ガイドラインが改訂され、麻疹ワクチンの卵アレルギー児対策を明確化し、痙攣などの接種要注意者の接種に関する専門学会の見解が記載され、健康被害と対策も健康状態調査に基づいた記載に変更された。突発性発疹などの疾患罹患後の接種時期も新たに記載されている。千葉県のマニュアルを元に「予防接種間違い防止の手引き」も作成し配布された。

 麻疹ワクチンの標準接種期間を生後12-15か月に変更するなど対策を強化している。流行時には乳児期に接種して1歳半以降に追加すべきであり、年長児への2回接種は課題となっているがすぐに実現する見込みは薄く、発想の転換が必要である。

 ポリオは不活化ワクチン(IPV)への移行が遅れており、DPTとの混合ワクチンが望まれるものの、DPTとIPVの同日接種になるかもしれない。そのほかに、ヘモフィルスインフルエンザb型菌ワクチン(Hib)やMMRワクチン、MRワクチンなどが申請中または治験中だが遅れており、多くの国で標準的に使用されているワクチンが未だに導入できていない。さらに、乳幼児にも効果が期待できるインフルエンザ生ワクチンや、接種効率の良いDPT-IPV-Hibなどの多価混合ワクチンの導入が検討されている。

 2005年よりツ反を省略してBCGの乳児早期接種に変更される予定だが、接種率の向上、接種技術の向上、既感染者に接種したときの副反応(コッホ現象)への対応などが課題である。ガイドラインにBCGの接種部位は上腕「伸側」となっているが、「間違い防止手引き」に写真で示されている「外側」が正しい。

 予防接種後副反応報告数では、全体で腫脹などを含めて3/1000程度であり、明らかに減少している。

(3)「地域における子育て支援 −医師会を中心とした活動の実際と提言−」 藤井 均(群馬県桐生市医師会監事)

 桐生市は人口約11万5千人、年間出生約930人という地方都市で、昭和58年の日医委託事業「学校保健を中心とする地域保健活動」以来、乳幼児健診の充実とその一貫性、連続性を重視し、3歳時と就学時期の中間期にある4歳児健診を独自に実施している。主なチェックポイントは言語運動や社会性の発達、自閉傾向、視力の再チェックなどで、健康志向型へと移り変わり、余計な不安を与えないように配慮している。保育園・幼稚園の就園率は約90%であり、園において園医が健診を行っているが、園医は必ずしも小児科医でなく、健診の質を確保するための問診票の工夫、未就園児は別に集めて集団で健診をしていること、親が立ち会わないことによるプライバシーへの配慮などが報告された。

 また、小児科医、産婦人科医、保健師、助産師、看護師、養護教諭等で構成され、44年もの歴史を持つ「桐生母子保健みどり会」が、地域における母子保健の連携・支援活動を積極的に行っていることが紹介された。

(4)「いのちみつめて・瞳輝く子どもたち −役立ち感で自分が好きになっていく−」 高塚人志(鳥取県立赤碕高等学校保健体育科教諭)

 不登校やいじめなど子どもたちが抱える多くの問題の根底には、人間関係体験の未熟さから人間関係づくりを不得手としていることが原因の一つにあると考え、平成8年から高校の正規の授業として「レクリエーション指導授業」を実践してきた。クラスの仲間との出会いやふれあうきっかけを作る「コミュニケーション・ゲーム」、他人を思いやるためにどのように自分が行動すればいいのか、他人や集団との関わり方を学ぶ「気づきの体験学習」、そして保育園や高齢者施設における1年間の継続的な交流を通して人間関係作りに挑む「園児や高齢者との交流」が3つの大きな柱となっている。

 特に「園児や高齢者との交流」において、自分が認められ喜ばれるという「役立ち感」を実感し、自分の存在に自信を持ち、「いのち」のかけがえのなさを実感として気づいていくことが、高校生たちの活き活きとした笑顔の写真とともに紹介された。この取り組みが全国の教育・保育・医療現場などで実践されることで、日本の国が今以上に思いやりがあり、いきいきと活気に満ちた国になるのではないだろうか。

 高塚氏のホームページ http://hp1.tcbnet.ne.jp/~taka255/
 著書「自分が好きになっていく」「17歳が変わる!」など多数

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