以下の原稿の要約は東奥日報明鏡欄に投稿し（2000.10.15）、10.23に掲載されました。そちらの方はタイトルや本文の表現などはもう少し穏便にしてあります（→掲載紙 284K）。
青森県民はどこまでお人好しなのか。木村知事は県民の声を全くと言っていいほど聞こうとしない。核燃1)・安全協定2)や津軽海峡大橋問題3)に限らず、冬季アジア大会4)、岩木山のスキー場拡張問題5)にしても、賛成する声はほとんどない。しかし、一部の人が具体的な反対運動を起こしても、県民全体の声として非民主的な県政を揺り動かすような動きに発展する見込みは全くない。
歴史的にみてもむつ小川原の失敗のツケとして核燃サイクル施設を押しつけられ、原子力政策の先行きが全く立たないまま安全協定を受け入れてしまった。しかも、全く採算がとれる見込みのない津軽海峡大橋などという夢物語を自ら望んで引き受けようというのだ。
あるいは、せっかくワールドカップの会場に落選して多額の負担を負わなくて済むはずだったのに、その見返りとして誰も望んでいない冬季アジア大会をごく一部の関係者が画策して誘致する。そこでまた県民の貴重な税金と地元企業への多額の協賛金（これもまた県民の負担であることにかわりはない）を費やそうというのである。
さらに、津軽海峡大橋を語るときに忘れてはならないのは、この橋は原子力半島下北で非常に重大な事故が起きたときの避難ルートとして想定されており、国もそれがゆえに前向きの回答をしたという事実である。
県南の某地方紙に、「この構想は万一、事故があったときの避難道路に…ということで急浮上したそうだ。が、それはおかしい。避難道路を設けるのは、極論すれば知事でさえ事故があり得ると安全性に疑念を抱いていることになりはしないか。急ぐことはない。議論を深め安全性を確認したい」などと書かれていたが、この認識には呆れてしまった。この新聞社は昨年の東海村臨界事故に何も学ばなかったのであろうか。
この件に関する認識は、もちろん知事が正しい。核燃施設を受け入れるならば、万が一の事故がおきないという保証はどこにもないのである。知事が原子力レスキュー隊にこだわったのも、同じ理由からだ。そして、県内の医療機関も自治体・消防関係者も、重大な事故を想定して具体的なマニュアルづくりを始めているのである。
東奥日報にはこの点をもう少し強調して報道して欲しいと思う。もちろん、実際にそのような重大な事故が起きてしまえば、下北だけでなく、青森も八戸も十和田湖も、何もかもが失われてしまう。「避難ルートとしての橋」は必要かもしれないが、問題はそういうことではないのだ。
蛇足ながら付け加えさせていただけば、国はこの架橋を本気でつくるつもりはない。建設に向けて前向きに検討するというポーズをとり続けながら、核燃の計画を進めようという魂胆であろう。その程度の駆け引きも理解できないのだろうか。不思議でならない。
このような歴史的な重大問題は、一人の知事の思惑や、県民の声を反映しない県議会与党の判断で決めて良い問題ではない。木村氏は先見の明がなく目先の利益で郷土を売った知事として後世に汚名を残すことになるだろう。
一連の経緯であまりにも「低レベル」な県政の実態が県民の前に明らかになった。遠くユーゴスラビアでは民衆の力が独裁者を権力の座から引きずり降ろし、我が国でも保守王国長野で新しい風が吹いた6)が、私たちの故郷ではこの異常事態に指をくわえて見続けるしか手だてはないのだろうか。
いま青森県で起きていることは、全国ニュースでは全くと言っていいほど取り上げられておらず、無視されている。青森は見捨てられようとしているのである。今のうちに青森にヤバイものは押しつけておいて、気がついたときにはその運命から逃れられなくしようとしているのだろう。穿った見方をすれば、そのために報道も控えているのかもしれない。
少なくともそのことには気づいて欲しい。
くば小児科クリニック（八戸市） 久芳 康朗 2000年10月15日
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2) 使用済み核燃料搬入安全協定締結（東奥日報）
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2000/nto20001013.html#Anchor1
3) 津軽海峡軸構想／未来に架ける北のロマン〜津軽海峡大橋の実現に向けて〜（青森県）
http://www.net.pref.aomori.jp/kaikyo-jiku/
4) 揺れるアジア大会（東奥日報）
http://www.toonippo.co.jp/tokushuu/asia/index.html
4) ア大会、問われたのは知事の器量（東奥日報）
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2000/nto20001013.html#Anchor11
5) 岩木山を考える会／鰺ヶ沢スキー場拡張工事差止請求訴訟
http://www1.ocn.ne.jp/~iwakisan/
6) 「しなやかで、すがすがしい、隠しごとのない県政を」（東奥日報・天地人）2000年10月17日(火)
http://www.toonippo.co.jp/tenchijin/ten2000/ten20001017.html
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