■ くば小児科クリニック 院内報 2006年6月・7月号


● 院内版感染症情報 〜2006年第29週(7/17〜7/23)


        2006年 第13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29
インフルエンザ    0  0  1  2  5  2  2  6  1  1  2  5  6  4 10  2  1
咽頭結膜熱        0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  2  0
A群溶連菌咽頭炎  0  0  2  1  1  0  0  0  0  0  0  2  0  0  0  0  1
感染性胃腸炎      3  7  8 11  5  3  6  8  5  3  4  4  1  3  4  3  4
水痘              0  0  2  0  1  1  4  2  4  2  3  1  5  1  0  3  1
手足口病          0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  2  0  0  1
伝染性紅斑        0  0  0  1  1  1  1  2  0  1  0  1  0  2  0  0  0
突発性発疹        0  0  2  2  0  0  0  0  2  0  0  0  1  0  1  1  0
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  2  4  4
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    1  1  1  0  0  0  0  1  0  1  0  1  0  1  0  0  0
 前号で5月中には終息する見込みと書いた季節はずれのインフルエンザは、学校毎に飛び火していき7月まで流行が残りました。
 6月から増えているのは高熱が初期にみられる夏かぜタイプで、ノドのブツブツがひどくなるヘルパンギーナや手足口病、高熱が続き結膜炎を合併するアデノウイルス、下痢を伴うウイルス性胃腸炎が含まれています。

 新聞などで「プール熱流行中」と書かれていますが、俗にプール熱(いまの小児科医はこの病名は使いません)と呼ばれる咽頭結膜熱を含むアデノウイルス感染症は、結膜炎を伴う場合も伴わない場合もあり、気管支炎や胃腸炎など多彩な症状を示す強いウイルスで、夏かぜとしてだけでなく1年中みられるウイルスです。時に高熱が5日くらい続く場合があります。ほとんどの場合はプールとは関係なく、接触や飛沫など普通の風邪と同じ経路で感染します。

 これらのウイルスには効く薬がありませんので、熱だけの場合はそのまま自宅での看護が主になるし、咳や下痢などの症状があればそれぞれに対する薬を出す場合もあります。普通の夏かぜなら2-3日しっかり休ませれば自然に回復してくれます。


● 禁煙治療でニコチンパッチが保険適用になりました

 禁煙治療に必須のニコチンパッチ(貼り薬)が6月から保険適用となりました。これで診察代、薬代すべてに保険が効くことになり、毎日のタバコ代よりもずっと少ない金額で禁煙治療が行えるようになりました。
 これまでは禁煙外来目的で受診される方が主で、通院しているお子さんのご家族の受診は多くなかったのですが、この機会にすべての方に禁煙していただけることを願っております。


● マークさんはなぜ歩かなくてはいけなかったのか

 前号でお知らせしたマーク・ギブンズさんの講演会と禁煙ウォークは無事終了し、新聞などでも報道されました。その本当の意味を確認するために書いた文章がありますので、長文になりますが是非ともお読み下さい。
 なお、当院で262名もの方に路上喫煙禁止条例制定のご署名をいただきありがとうございました。八戸市議会では、皆さんの願いのこもったこの請願の採択を「否決」したことをここにお伝えしておきます。

○ マークさんはなぜ歩かなくてはいけなかったのか
 −国民を守らずにタバコ産業を守り続ける政府−

 マーク・ギブンズさんは4月に鹿児島の佐多岬を出発して以来88日間におよぶ禁煙徒歩行脚の末、7月9日についに宗谷岬に到達した。6月に青森県内を縦断した際に講演会や禁煙ウォークなどの支援を行った私たちもその喜びを共に分かちあったが、マークさんの行動と言葉の持つ意味の重みは、ウォークが終了したいま、更に増しているように思う。
 マークさんのゴール後の第一声は、偉業達成の喜びではなく「問題は何も解決していない。こうしている間にも毎日300人もの人が亡くなっていることは悲しい」というものだった。
 マークさんは母国オーストラリアに戻るが、本当のゴールに向けた新たなウォークの旗は、今回のサポートで一本の線となり繋がった全国の支援者の手に渡された。

○ 日本の常識は世界の非常識

 日本国内でタバコ病死は年間11万4千人(毎日300人強)、受動喫煙による死亡も約2万人、合わせて毎年13万人以上の人がタバコの犠牲になっている。これは決して自然死ではなく、自業自得(自己責任)でもない。
 常習者の半数を死に追いやる毒物であり依存性のある薬物を、何の規制もなく道端の自動販売機で子どもが自由に買えるようにして、新たな喫煙者(依存症患者)へ引きずり込んでいる国。その毒物を販売する企業(JT)の株の50%を保有して法律でその産業を奨励している国。この異常事態を、緊急に対策をとるべき問題だと認識することができない一部の医療者や政治家。
 「日本の常識は世界の非常識」と言われて久しいが、私たちはゴールの見えない禁煙活動に疲れ、いつまでも変わらぬ「世界の非常識」が“この国の常識”だと慣らされつつあった。
 マークさんのストレートで身体的な行動とメッセージは、そんな私たちの目を再度はっきりと覚ましてくれた。

○ オーストラリアから30年遅れた日本の対策

 オーストラリアはタバコ規制政策のトップランナーだが、30年前には男性の喫煙率は47%で現在の日本と同じくらい高かったという。それが、政府とNPOの協働による規制と学校やメディアを通じた教育プログラムなどにより現在17%にまで低下し、このペースが続けば2030年頃には男女とも喫煙率ゼロになるものと期待されている。
 日本のタバコ規制対策も2003年の健康増進法施行をはさんでここ数年で飛躍的に進歩したとよく言われる。確かにそれは事実かもしれないが、喫煙率だけでなく国の規制政策においても国民のタバコに対する知識レベルにおいてもオーストラリアとは30年もの開きがあり、やっとスタート地点にたどり着いたに過ぎない。

○ 真実を知らされていない国民

 マークさんの喫煙者に対する目は優しく、今回のウォークによって「禁煙は愛」というメッセージが一人でも多くの人に届き禁煙してくれることを願っている。小学生との交流会で「タバコを吸っている人のことをどう思うか」と質問され、「カワイソウ。真実を知らされずに死にゆく人だ」と答えている。そして、特に若者や子どもたちがタバコの害についての真実を知れば、タバコという高い依存性のある「商品」により身を滅ぼす選択をしなくなるはずだと信じている。
 マークさんは小学生に対し、13歳からタバコを吸い続けて34歳で肺がんにより亡くなったブライアンさんの写真を見せ、ブライアンさんや残された妻子と同じような悲劇が毎日300もの家族で繰り返されていることを語った。
 マークさん自身、喫煙防止教育をはじめて受けたのが9歳で、その時みせられた写真の衝撃を忘れることはできなかったという。小学生との交流会の最後に、マークさんからの問いかけに対して全員が将来絶対にタバコを吸わないと手を挙げた。この子たちはマークさんとの約束を一生忘れることはないだろう。
 私はマークさんと同じ歳だが、もちろんこのような教育は受けていない。それどころか、医学部でもタバコの害をまともに習った覚えはなく、いま持っている知識の大半はここ数年で身につけたものだ。まして一般の方がタバコの害についてわずかな知識しか持たないのも、この国の現状では当然のことだ。「大人は吸ってもいいが子どもは駄目だ」などという教育は全く意味をなさない。全ての年齢層に対してメディアなどのあらゆる手段を使った継続的な教育と情報提供を行っていく必要があるのだが、タバコ・マネーの影響下にある既存メディアには多くを期待することができない。
 マークさんは、国民に正しい知識を伝えようとしない政府やメディアに憤りながらも、真実はインターネットを通じて容易に入手できる時代になっており、一人一人が主体的に情報を取得していく必要性も強調していた。

○ 国民の命を守ろうとしない国

 その一方で、国民を守ろうとせず対策を先送りにしてタバコ病死を放置しつづける政府や、タバコの害をきちんと患者に伝えてやめさせようとしない医師への言葉は手厳しい。
 静岡市で一人の喘息を持つ中学生が集めた署名と請願によって路上喫煙禁止条例が制定されたニュースが「美談」として伝えられているが、マークさんは、本来なら国が子どもたちの健康を守らなくてはいけないのに、こんなことは全く逆ではないかと強い言葉で意識の転換を喚起している。
 しかも、このような「美談」ですらごく稀なケースであり、今回私たちが青森県内の全市町村議会に提出した路上喫煙禁止条例制定の請願・陳情は、ただの一つとして採択されることはなかったのが現実である。

○ タバコはどんな形態や偽装をしても致死的

 毎年5月31日の世界禁煙デーにWHOはスローガンを発表している。2006年は「Tobacco: Deadly in any form or disguise(タバコ:どんな形や装いでも命取り)」であり、自社の利益のために世界中の人々を欺きながら毎年500万人もの命を奪い続けているタバコ会社の反社会的な広告販売活動を厳しく批判したものだが、5月31日にこの標語を取り上げたメディアは皆無であった。前年に発効したタバコ規制枠組み条約(FCTC)も、タバコ会社の企業活動を世界中の国が手を結んで包括的に規制していくことが目的であるが、そのことを正しく理解している国民は一握りに過ぎない。

 しかも、タバコ規制の総本山であるべき厚労省が「やめたい人を手助けする禁煙支援」なる禁煙週間のテーマを別につくりだして肝腎のWHOのスローガンを「参考」扱いに格下げしてしまい、「どんな形や装いのたばこであっても喫煙は様々な疾病の危険因子であり、禁煙は生活習慣病予防の基本の一つである」などという本旨からかけ離れた腰の引けた説明を付けている始末なのだ。

○ タバコ規制対策のすべて

 実はタバコ問題ほど簡単なものはない。対策のすべては既に提示され、ロードマップもつまずきやすいポイントも先進諸国の経験により明らかにされている。日本はオーストラリアなどの先進国と同じ道を歩めばいいだけで、日本政府得意の「対米追従」をタバコ対策でこそ行うべきなのだ。それらはFCTCにも明確に示されているが、今すぐに取るべき主要な対策を列記してみると次のようになる。
 1)タバコ税大幅増税(一箱1000円)、2)屋外自動販売機の撤去(深浦町)、3)全ての公共的な場の禁煙化(飲食店・タクシー・路上など)、4)タバコ広告やスポンサーシップの全面禁止と包装の警告表示、5)全ての学校やメディアを通じた喫煙防止教育、6)禁煙治療の保険適用化と適応拡大、7)包括的なタバコ規制法の制定(北朝鮮)、そして8)タバコの製造・販売の禁止(ブータン)。
 マークさんは禁煙推進のアイデアとして "TELL" すなわち Tax(税)、Education(教育)、Legislation(法律)、Litigation(訴訟)の4つを特に重要視している。増税による財源はタバコ農家の転作と喫煙防止教育や医療費に用いられる。教育は子どもに対してだけでなく、テレビCMなどを通じて全ての国民に徹底して継続的な情報を与え続ける。職場における受動喫煙で雇用者が敗訴することは既に江戸川区で判例が確定している。タクシー訴訟でも国やタクシー会社は実質的に敗訴している。これらを適用すれば、全ての飲食店やJR・タクシーなどを含むあらゆる職場も、禁煙にする以外に選択肢はない。
 これらは全て包括的なタバコ規制法に盛り込まれるべきだが、「本丸」は法律が踏み込むことのできない「家庭」にある。生まれる前からタバコの煙まみれで育っている日本の子どもたちを救い出すために、あらゆる周辺的な対策をとり続ける必要がある。

○ トップダウンで早急な対策を

 しかし、実際にはタバコ問題ほど複雑で社会のあらゆるところまで入り込んでいる構造的な問題はない。構造改革を一枚看板に掲げた小泉政権は、本当に構造改革が必要なタバコと核燃問題には決して手を触れようとはしなかった。そしてこの2つは青森県において最も宿命的に深く根を下ろしている問題なのだ。
 民主主義のプロセスでは、長い年月をかけて合意に達したり、この国特有の「足して二で割る」手法が用いられたりする。しかし、タバコ問題において喫煙者と非喫煙者の主張を足して二で割ることは何も意味もないばかりか、根本的な対策への障害となることを銘記すべきである。
 マークさんは不完全分煙の飲食店や施設を「Pee pool(オシッコプール)」と表現していたが、現在とられている「対策」なるものは万事がその域を脱しておらず、いかにしてタバコ会社の売り上げを減らさないようにしながらタバコ規制を行うかという全く矛盾したものにほかならない。
 FCTC発効後1年を過ぎても一箱20円ばかりの微々たる増税しか実施することができず、必要な規制法の制定を図ろうとする動きが全くないことからも、本気で国民をタバコから守ろうとしていないことは明らかだ。あの北朝鮮ですら既にタバコ統制法を制定して喫煙率の減少目標を立て、喫煙者には大学入学資格を剥奪するなどの規制を実施しているのに。
 もちろん、喫煙者や規制の必要性を理解できない人たちに対し、情報を提供して理解を求める努力は必要だが、現実に犠牲者が増え続けている状況には、トップダウンで必要な対策を早急に取らなくてはならない。麻薬やダイオキシンを規制するのに、麻薬中毒患者やダイオキシン排出業者と話し合って決めようとする国がどこにあるだろうか。

○ 何かを変えるには自ら行動すること

 マークさんは毎日40〜50kmもの行程を、脚の痛みや疲労と闘いながら強い意志で歩き続けた。本来なら国がトップダウンで行うべき根本的対策を待っていたのでは犠牲者が増え続けるだけだという状況に対し、お世話になった大好きなこの国の人たちへの恩返しとして、自身の行動によって一人でも多くの人を救いたい、それだけでなく大きな潮流となって政策転換へと繋がることも願って、自分にできるアクションとして歩くことを選んだ。
 八戸における講演で "Be the change you want to see in the world" というガンジーの言葉を引用して、何かを変えようと思ったらまず自ら行動しなさいと訴えたのが強く印象に残っている。
 このようなボトムアップの手段による影響力は一見すると微々たるものに思われるかもしれない。しかし、彼の歩く姿と真摯な言葉は、全国各地で確実に多くの人の心をつかんでゆり動かし、次の行動へ繋がっていくきっかけとなった。あらためて感謝したい。
 この国が国民の健康を守ろうとするまともな社会であったならマークさんは歩く必要がなく、また本来ならこのような行動は日本人が行うべきものであった。国はマークさんの行動とメッセージの真意を理解して早急に政策転換を図らなくてはいけない。

○ タバコ規制対策の目標とは

 このポイントをはっきりさせておかないと、いつまでたってもタバコ産業の様々な詭弁に有効な反論ができずに現状維持を余儀なくされる羽目になる。
 タバコ規制対策の目標とは、喫煙率を激減させてタバコ病死を減らすこと、究極的にはゼロにすることであり、それはタバコの売上本数を激減させてタバコ会社の存立を危うくし、葉タバコ農家の生計を崩壊させることにほかならない。
 国民の命を守ることと、葉タバコ農家の生計を守ることは、決して両立することはない。
 だからこそ、青森県の政治家や首長はその二つを両立させること、すなわち葉タバコ農家の転作支援を最優先の課題として真剣に取り組むべきであり、共存共栄を唱えてタバコ規制対策を後退させようとしているタバコ族議員は、その言動によってタバコ病の犠牲者を見殺しにしているだけでなく、無策のまま葉タバコ農家をも見捨てているに等しいことを理解すべきだ。

○ 水俣病やアスベストと同じ構造的犯罪

 健康に対する重大な影響が明らかになり、諸外国が適切な対策をとって国民を守っているのに、その規制や対策をとる義務がある政府が国民の命よりも企業の経済活動を優先し、必要な対策を先送りにしたために犠牲者が増大し続けている。この構図は、水俣病や薬害エイズ、アスベスト問題などと相似形で比べものにならないほど大規模な犯罪行為であり、タバコ会社と国の責任が問われる日が来るのは間違いない(現在でも裁判所が正常に機能していれば諸外国と同じ判決が出ているはずなのだが)。
 国が全面的に政策を転換して犠牲者が減少へと転じ、私たちが禁煙活動などという無駄な努力をする必要がなくなる日まで、マークさんから渡された旗を全国の仲間と共に手に持って歩き続けなくてはいけない。

○ 歩けばわかるマークさんの気持ち

 マークさんの禁煙ウォークの計画を2月に初めて聞いた時、やはりウォーキングと禁煙はベストパートナーだと確信した。この88日の間、全国各地で支援者が毎日のように駆けつけて一緒に歩いたり走ったりした。県内で禁煙活動を二十年にも渡って続けてきた角金秀祐氏(当会世話人)は、南部町から大間町まで歩き通してマークさんを応援した。
 ウォーキングやランニングにタバコは厳禁というのはもちろんのこと、地に足をつけて着実に前に歩きつづけることが、害悪と虚飾にまみれたタバコという存在の対極にあるものだということは、自分の足で歩いてみれば体感できるのではないかと思う。(実際にはウォーキングやマラソン大会でタバコを吸う姿を目にすることも多く、ニコチン依存症の根深さを感じざるを得ない。)
 マークさんがなぜ三千キロにも及ぶウォークを敢行したのかに思いを馳せながら、3キロでも5キロでも少し早足で歩いてみませんか。そして、この国のタバコ規制のあり方を早急に変えていくために、医師・歯科医師は国民のリーダーとなって世論や政府を動かしていく義務があることにも、歩きながら思いを巡らせてみて下さい。


発行 2006年7月27日 通巻第122号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
TEL 0178-32-1198 FAX 0178-32-1197
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☆ 当院は「敷地内禁煙」です


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