■ くば小児科クリニック 院内報 2004年1月号


院内版感染症情報 〜2004年第4週(1/19-1/25)


   2003-2004年 第41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 01 02 03 04週
インフルエンザ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  0  0  4  4  9 20
咽頭結膜熱        1  0  2  2  0  1  0  0  0  0  1  0  2  0  1  1
A群溶連菌咽頭炎  0  0  0  0  0  0  1  0  1  2  1  0  2  1  4  4
感染性胃腸炎      2 10  2  5  1 10 12 13 11 13 14 12  1  8  7  7
水痘              2  0  2  0  0  0  0  1  4  0  4  3  1  0  0  0
手足口病          1  1  1  0  0  0  0  3  0  0  0  0  0  0  0  0
伝染性紅斑        1  0  1  0  1  1  0  0  0  0  0  0  0  1  2  0
突発性発疹        1  0  0  1  2  1  3  0  3  0  0  0  0  1  0  2
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    1  1  0  0  0  0  0  0  0  1  0  2  0  1  0  0

☆ インフルエンザは流行期に、ロタウイルス性胃腸炎はこれから

 インフルエンザは12月上旬からゆるやかに流行が始まり、今年は山形県でブレイクし、八戸市内では局地的な流行に留まっていましたが、3学期に入って市内各校で流行が本格化しました。ピークは2月上旬になるものと予想されます。インフルエンザにかかったら、最低でも「解熱した後2日を経過するまで」は出席停止となります。決して無理に登園・登校させないようにして下さい。ワクチンは1月下旬には終了となる見込みです。

 ウイルス性胃腸炎は、初冬のSRSV(ノロウイルスなど)から厳冬期のロタウイルスに切り替わってくる時期で、特に0−1歳児は注意が必要です。嘔吐が続いている最初の半日の絶飲食などの対処法は基本的には同じです。その他には、例年と同様に溶連菌感染症と水ぼうそうが流行しています。保育園児で水ぼうそう未罹患・未接種の場合はワクチンをご検討下さい。


● 抗生物質って何だろう(その2)

 かぜ症候群でどういう場合に抗生物質を使うのかというガイドラインの例として『高熱の持続、膿性の喀痰・鼻汁、扁桃腫大と膿栓・白苔付着、中耳炎・副鼻腔炎の合併、強い炎症反応、ハイリスクの患者』というものを先月号に掲載しましたが、小児科の場合も大体同じような傾向となります。

 いったん話を戻します。一般的な病原体には大きく分けて細菌(細胞を持っていて自ら増殖する)とウイルス(他の細胞の中でないと増殖できない)があり、その中間的な存在としてマイコプラズマやクラミジアなどがあります。その他に、真菌(カンジダなどのカビ)、原虫(マラリアなど)、寄生虫などの病原体もありますが、今回は省略します。

 抗生物質(抗生剤)というのは細菌に対する薬で、ウイルスには効きません。インフルエンザやSARS、麻疹、おたふくかぜ、水痘、ロタウイルスなどはいずれもウイルスによるもので、インフルエンザや水痘など抗ウイルス薬が開発されたごく一部のものを除けば、ウイルスに効く薬はありません。

 風邪のほとんどはウイルス性ですから、溶連菌感染症のように明らかに細菌性のものが疑われる場合をのぞけば、熱があるからすぐに抗生物質を処方するということはしませんが、上記のガイドラインのように、経過や合併症などから細菌の二次感染が疑われる場合は早めに使うこともあります。

 マイコプラズマは咳が多くなり肺炎を引き起こすタイプで、マクロライド系の抗生物質(クラリス)など一部の薬しか効果がありません。

 抗生物質というのは、たとえその細菌に感受性があって効果が期待される場合でも、1回飲んだり点滴すれば全部治るということはありません。例えば、1回飲んで80%の細菌が死んだとしても、時間が来ると残りの20%がまた増えてきます。そこで2回目を飲み、また残りが増えて、3回目を飲みというように繰り返していって徐々に効いてくるものですから、1日の決められた量と決められた回数を守って毎日続けて飲まないと意味がないし、効いているのかどうか判断できなくなります。また、効果の判定には最低でも2−3日は必要になります。ただし、すでに気管支炎や肺炎になりかけていて、薬を飲み始めても更に症状が進んでしまう場合にはそこまで待たずに次の段階(検査したり薬をかえたり入院したりすること)が必要になりますので処方された日数より前でも受診するようにして下さい。

 このテーマはだいぶ前にも触れたことがあったのですが、耐性菌のこと、薬の種類と飲み方、副作用のことなどまだまだ書き足りない感じがしますので、続きを近いうちに書きたいと思います。


● 鳥インフルエンザ と 抗インフルエンザ薬 に関するQ&A

 鳥インフルエンザについては新聞等でも報道されているとおりですが、詳しい情報はこちらへ。(感染症情報センター)
 http://idsc.nih.go.jp/others/topics/flu/toriinf.html

 一方、ここ数年で急速に普及した抗インフルエンザ薬の中で、子どもにも適応がある「タミフル」という飲み薬が昨年から世界的に使われるようになり、初期の発熱の期間を大幅に短縮することができるようになりました。実際には、昨シーズンは西日本で先に流行して在庫がなくなったために、東北ではごく僅かしか使えなかったのですが、発売後の調査でも重篤な副作用は報告されていませんでした。ところが、今年に入ってから米国において1歳未満の子には投与を推奨しないという通達がでたと報道されました。これは、「生まれて7日目のラット(ネズミ)に、体重あたりで換算してヒトに投与する500倍もの大量のタミフルを飲ませたところ、その中に死亡例があり、脳組織に異常な高濃度の薬剤が検出された」という実験結果をもとに、「血液脳関門」が十分に完成していない1歳未満の乳児に対して投与量や副作用の予測が出来ないためと説明されています。

 元々この薬は乳児で治験が行われていないため「1歳未満の児に対する安全性および有効性について確立していない」という記載がなされているのですが、これは小児科における治験の難しさなどによる問題であって(実はそういう薬は他にもあります)、1歳0か月の子には大丈夫でも11か月の子には危険だという意味ではありません。今回の通達(日本で厚生労働省の安全性情報が発せられたわけではなく米国における製薬会社の自主通達)に対して、小児科医の間でも非現実的な実験結果を基にした措置という批判の声が出ているのですが、私たちに連絡が来る前にマスコミに先に流れてしまったため、1歳未満の子には「原則として」使わない方針で今年は対応せざるを得ません。(←この国の医療行政はいつもそうで、私たち患者さんに接している臨床医はいつも説明に苦労させられます)

 このタミフルという薬は、従来使われていたA型のみに効くシンメトレルという薬に比べると、A型B型両方に効果があり、新型インフルエンザにも効果があると考えられており、吸入ではなく小児にも使いやすい飲み薬で、副作用もシンメトレルより少なく安全な薬とされており、今後もインフルエンザの治療の中心となる薬だと思われます。服用期間は5日までとされていますが、当院では規定より少なめの量で3日間の処方を基本としており、それでも効果は十分認められています。副作用情報について過剰に警戒する必要はありませんが、今後も必要な情報をお知らせしていきながら使っていきたいと思います。なお、1歳前でも例外的に、兄弟姉妹での発症、症状が重そうな子、10か月以上など体重も1歳児に近い子については、状況に応じて処方する場合があり得ると思います。今年のインフルエンザは全体に軽い印象ですが、米国では18歳未満で既に42人が死亡しているという情報です。(今後の副作用情報によって変更がありましたらまたお知らせします)


● 2004年(平成16年)、年頭のごあいさつ

『今年は去年より良い年になる 28% ならない 72%
 小泉純一郎という男を信用できる 20% できない 80%』

 ニュース23で年明けに行われた電話調査の結果です。昨年は様々な意味で歴史に残る激動の1年でしたが、今年こそは良い年であってほしい、良い年にしたいと曲がりなりにも願うのが新年の習わしだったはずです。もちろん、ご家庭ではお子さんの成長や健康などを願い、それぞれが今年の抱負を語り合ったことでしょう。

 しかし、社会の様々な問題は確実に皆さんの暮らしを圧迫していくことになりそうです。『正してください、弱者いじめ』と題された東奥日報の社説に私たちの懸念が語り尽くされているので、一部を引用して年頭のごあいさつに代えさせていただきます。全文はホームページをご覧下さい。
 http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/sha2004/sha20040103.html

『ありていに言って、立場の弱い老人、庶民、弱者を標的に、国の財政再建と対米同調のみを目指し、増税、給付削減に突っ走る政府の姿は、日本の民主主義が、大岡越前守の昔に比べ、さほど良質化していない現状を明確に示している気がします。

 一体、現状の財政・年金危機を招いた張本人は、過去のごり押し政治家、官僚群に他ならなかったのが歴史的事実ではなかったでしょうか。今の閉塞状況は、彼らの先見性欠如に原因があったのではないでしょうか。

 なのに、政府が救いの手を差し伸べるべき弱者を逆にツケ返済の道具にするなど全くのお門違い、言語道断のことではないでしょうか。

 このままでは、税金、保険料の庶民負担が膨れ上がる一方、年金などの給付は削られるばかり。死を目前にした私たちの老後の生活には、夢も希望もなく、国家維持して庶民が泣く−こんな地獄絵図のみ脳裏に明滅します』

『それにつけても、国、県、市町村各レベルの財政危機を招来した過去の担当者の責任は一体、どこへ消えてしまったのでしょうか。どうしてそのツケを罪のない庶民と弱者だけが負わなければならないのでしょうか。失政の張本人たちの自己責任は全く問われなくていいのでしょうか。

 先進国の仲間入りをしたはずの日本が「ゆりかごから墓場まで」の欧米諸国と比べるべくもない低福祉水準を、一段と後退させようというのは、あってはならない本末転倒のご都合主義です。おかしいではありませんか』
(引用おわり)

 思えば、「多数決が民主主義なんだ」という数の理論を振りかざしながら、たとえ得票数では第2党に転落しても議席が過半数を占めていれば「国民の信任を得た」と言い放ち、現状での自衛隊のイラク派遣に国民の過半数は反対または懸念を感じているのに、憲法を恣意的に解釈して派兵を決定し、イラク戦争開戦の時には「世論は間違うこともある」などと決めつける。その時々で都合の良い部分だけをつまみ食いしてきた政治家と、それを許してきた私たち。青森県でも木村前知事をはじめとした前県政の責任は全く問われずにその重いツケだけを県民が負うことになる、こういう社会で子どもや若者が将来の夢や希望を抱くことができるのでしょうか。

 選挙で若者の投票率が低いことを嘆く声が大きいが、その最大の責任は今の社会をつくりあげて維持してきた私たち大人にあります。しかし、それと同時に、自分の手で何かを変えようとせず自らの権利を放棄して白紙委任状を渡してきた若者達には、年金負担が重いとか就職先がないとか子育て支援策が足りないとか、そういう文句を言う権利もなくしていることを理解してほしいし、今の若いお父さんお母さん方にも、医療や福祉・年金などの社会保障問題を中心にして、一緒に考えたり話し合ったりする機会を持ってみていただきたいと思います。

 話を戻しますが、毎日の診療においては、目の前の患者さんにより良い医療を提供するという基本に忠実に、院内報やホームページなどで必要な医療情報を提供し、急病診療所における時間外診療や乳幼児健診・予防接種などの地域医療にも貢献しながら、地道に大過なく務めていくことが最低限の目標となります。来年の合併にむけて、地域医療のフィールドも広がることになります。その他にも、何度もお伝えしている「はしかゼロプロジェクト」や禁煙活動などを今年こそは軌道に乗せていくことが青森県における私の努めであると認識しているところです。


● ツベルクリン反応検査廃止は2005年4月からに延期

 乳幼児にはツベルクリン反応をせずに直接BCGを接種する方法については以前からお伝えしていましたが、結核予防法改正案が昨年秋の解散前の国会での提出が見送られてしまったため、1年延期になって早くて2005年4月から実施される見込みとなり、2004年度は従来通りの方法で実施することになりました。詳細は、来年の実施前にまたお伝えしたいと思います。


○ 待合室の新しい本「健康を学ぼう 生活習慣病 - 予防と対策」

 2000年から2002年にかけてデーリー東北に連載された記事が本になりました。私も「子どもの喫煙予防」という項目を担当しています。子どもから高齢者まで、頻度の高い生活習慣病について一般向けにわかりやすく解説されていますので、一度手にとってご覧下さい。


○ 1〜2月の休診日、急病診療所、各種教室、相談外来の予定

 お正月以降は2月にかけて暦通りの診療で休診はありません。急病診療所当番は1月1日 (祝) 昼、12日 (祝) 夜、31日 (土) 夜の3回、2月は2月11日 (祝) 昼と22日 (日) 昼の2回です。赤ちゃん教室は1月17日 (土) で、その次は3月13日 (土) です。

 「育児相談・子どもの心相談」、「禁煙外来」(ご家族だけでなく本人や兄弟の喫煙についての相談も可)、いずれも水曜午後、土曜午後、平日夕方など時間をとって話せるときに相談可能です。(初回のみ無料で予約制)


☆ 乳幼児の繰り返す咳や喘鳴(ゼーゼー)とご両親のタバコ

 詳しくは次回以降にしますが、お父さんお母さんの喫煙は、子どもの喘息や喘息性気管支炎、治りにくく繰り返す気管支炎や中耳炎の原因となっているのです。いま、ニコチンパッチという肌に貼って使う薬を使えば、禁煙の最初のハードルは非常に楽に越えることができるようになっています。お子さんの健康のために、今年こそは家族全員で禁煙にトライしましょう。


発行 2004年1月24日 通巻第94号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
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