■ くば小児科クリニック 院内報 2003年3月号


院内版感染症情報 〜2003年第13週(3/24-3/30)


   2002-2003年 第51 52 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13週
インフルエンザ    0  2  0  0  8 31 52 39 21  8 10 21  7  7  1
A群溶連菌咽頭炎  0  3  0  1  0  1  0  1  2  2  2  0  1  2  0
感染性胃腸炎      3  9  4  3  7  8  3  4 24 15 13 12  5  5  6
水痘              4  3  3  2  1  1  3  3  3  7  1  5  4  2  0
手足口病          0  0  0  0  1  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1
伝染性紅斑        0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
突発性発疹        1  3  0  2  1  1  0  2  1  2  1  1  0  2  4
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
麻疹              0  0  1  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    0  1  0  2  1  0  1  0  0  0  0  0  0  0  0
☆ インフルエンザはB型が局地的にみられています

 2月にピークとなったインフルエンザやロタウイルス性胃腸炎の流行は下火になりましたが、3月中旬にかけてインフルエンザB型がいくつかの学校で流行し、春先にかけてもう少し残るものと予想されます。水痘(水ぼうそう)と溶連菌感染症の流行もまだみられています。

 この統計には出てきませんが、小さい子で重症化しやすいRSウイルスによる細気管支炎や、マイコプラズマなど咳が主症状のタイプもあり、この時期は様々な種類の感染症がみられます。保育園に通い始めた子などは風邪や下痢などに立て続けにかかることもよくみられます。

 八戸の花粉飛散は例年4月第1週がピークとなり、GWの頃にはなくなっていきます。


● 重症急性呼吸器症候群(SARS)とは?

 2月末から世界的な緊急感染症となった「重症急性呼吸器症候群(SARS)」は、3月28日現在15か国・地域で患者数は1505人、死亡数は54人に上っており、依然として深刻な流行が続いています。国内ではSARSが疑われた例はありましたが、いずれも否定されています。この間、世界的な研究ネットワークと遺伝子工学の進歩により、ウイルスの同定から迅速診断キットの開発まで数週間でこぎ着けるという快挙を成し遂げています。しかし、診断がついても既存の抗ウイルス薬は効果がなく、支持的療法以外の治療法がないことには変わりありません。

 SARSの症状と診断基準は、1) 筋痛、悪寒、戦慄を伴う高熱(>38℃)、2) 咳嗽、息切れ、呼吸困難などを含む1つ以上の呼吸器症状、の2項目に加えて、以下の1つ以上の条件を満たすことが必要になります。1) SARSと診断された人と密接な接触があったこと、2) SARSの報告がある地域(香港、北京、広東、山西、台湾、ハノイ、シンガポール、トロント=3/29現在)へ最近旅行していること。

 これらの症状から当初は新型インフルエンザが疑われましたが、現在までに集まった調査結果によると、コロナウイルスの仲間(新種)の可能性が非常に高いということです。コロナウイルスというのは「かぜ」を起こす多くのウイルスのうち比較的ポピュラーなものですが、重症化することは少なく、特異的な検査法もなく、コロナかどうかなど日常診療で意識することもありませんでした。そのウイルスがなぜ凶暴化して今回の大流行を起こしたのか、インフルエンザと同じような鳥のウイルスの変異も想定されているようですが、まだ分かっていません。

 SARSについての最新情報は感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html)に掲載されていますので、海外に行く予定のある方はご確認下さい。特に、子どもやお年寄りなど抵抗力の少ない方は、流行地域への旅行は当面見合わせた方がいいでしょう。


● イラクの子どもたちは、いま

 イラク戦争は開戦後1週間で泥沼化を予想させる展開になってきています。毎日両軍の兵士や民間人の命が失われており、その中には子どもや女性、老人も含まれています。「誤爆」という言葉に騙されてはいけません。戦争に民間人の犠牲はつきものだし、兵士は市民の家族なのですから、誤爆がなければキレイな戦争などというのはまやかしです。

 イラクの乳児死亡率(出生千人当たり)は湾岸戦争前の1990年の63から、厳しい経済制裁の中で1997年には112に跳ね上がっています。イラクの赤ちゃん千人のうち112人が1歳前に亡くなっており、5歳までに更に28人が亡くなります(5歳未満児死亡率86→140)。この差は、国際社会が見殺しにした子どもたちだと言っても過言ではありません。

 一方、日本の乳児死亡率は1998年には3.6で世界のトップレベルにあり、イラクの1/30以下です。赤ちゃん短命県と言われている青森県ですら2000年の乳児死亡率は5.0で、日本が「市場経済を導入した医療」の手本としているアメリカの7.2(1998年)や、米英日連合国であるイギリスの5.8(1999年)を下回っています。しかし、

乳児死亡率の推移(青森県) 出生千人当たり
1940年138.71970年17.7
1950年95.51980年8.3
1960年45.81990年5.9


この数字をみてもらえばわかるように、イラクの子どもたちは日本の戦前戦後と同じようなレベルにあり、そこに世界の超大国が全面戦争で追い打ちをかけていることになります。この戦争がいつ終わるのかわかりませんが、「戦後復興」がすんなりといくとは考えにくいので、たとえ爆弾で殺されなくても死亡率が更に悪化することは確実です。ちなみに、同じようにアメリカが攻め込んだアフガニスタンは、乳児死亡率が165、5歳未満死亡率が257(1998年)と世界最低レベルにあります。

 「イラク戦争 ブッシュ政権が隠したい事実」を書いたスコット・リッターは、国連の管理下で経済制裁を解除してイラク国民を助け、長い時間をかけて中産階級を増やしてフセイン政権を弱体化させることが唯一の解決策だと訴えましたが、すでにその道は閉ざされてしまいました。

 支配者側の理屈や世界のパワーポリティクスがどうあれ、これが私たちの国が支持している戦争の真実です。「いのち」という視点から考えれば、ブッシュもサダム・フセインもコイズミも、そして彼らの行動を結果的に許している私たち自身も、同じ罪を負うことになるでしょう。


○ 4〜5月の休診日、急病診療所、各種教室の予定

 4月〜5月はGWも含めて暦通りの診療となりますが、5月17日(土) は仙台での学会出席のため午前中のみの診療で午後休診となります。

 4月の急病診療所当番は5日夜と16日夜、27日昼です。次回の赤ちゃん教室は5月31日(土) です。


発行 2003年3月31日 通巻第84号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
TEL 0178-32-1198 FAX 0178-32-1197
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