■ くば小児科クリニック 院内報 2003年2月号


院内版感染症情報 2003年第08週(2/17-2/23)


	  2002年 第46 47 48 49 50 51 52 01 02 03 04 05 06 07 08週
インフルエンザ    0  0  0  0  0  0  2  0  0  8 31 52 39 21  8 
A群溶連菌咽頭炎  0  0  2  1  0  0  3  0  1  0  1  0  1  2  2
感染性胃腸炎     13 20 18 20 14  3  9  4  3  7  8  3  4 29 15 
水痘              1  2  6  1  0  4  3  3  2  1  1  3  3  3  7
手足口病          1  0  2  0  2  0  0  0  0  1  0  0  0  0  0
伝染性紅斑        0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
突発性発疹        0  3  2  3  2  1  3  0  2  1  1  0  2  1  2
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  1  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    0  1  0  0  0  0  1  0  2  1  0  1  0  0  0
☆ インフルエンザはピークを過ぎ、ロタウイルス性胃腸炎が流行中

 インフルエンザ:先月号の予想通り1月末から2月上旬にかけてA型が流行し、全国的には脳炎・脳症などで重症化したり亡くなった子もみられています。ここ数年、この時期から春先にかけて腹部症状を伴うB型との混合流行がみられています。一冬に2回インフルエンザにかかる場合もあり、各種の風邪との鑑別が難しい時期になってきました。今年はインフルエンザの新薬が子どもでも使えるようになったものの、全国的に不足して行き渡りませんでした。情報によると、重症化した子の中には解熱鎮痛剤も使わず抗インフルエンザ薬を飲ませる間もなく脳炎・脳症に進展した子がいるということです。今年のインフルエンザ予防接種は例年に比べて効果が良い印象があり、やはり重症化を予防する手段として予防接種をもっとお勧めすべきだったかと考えています。
 →インフルエンザの各種報道とそのコメントは別にまとめてあります

 麻疹(はしか):前回お知らせした一部地域での流行は拡大せずに終息した模様です。しかし、例年春先から初夏にかけて流行し、昨年は全国ワースト1の大流行となりました。予防接種をお忘れなく!

 ウイルス性胃腸炎:年末から嘔吐・下痢をおこすウイルス胃腸炎は下火になっていましたが、インフルエンザの流行と入れ違いに2月中旬からロタウイルスによる胃腸炎が流行しています。初冬にはやるSRSウイルスよりも重症化することが多いのですが、対処の仕方は同じで、吐き気が続く最初の一晩をちゃんと乗り切れるかどうかがポイントです。その後に水のような下痢が続きますが1週間以内で回復していきます。飲ませると下痢するからといって水分や食べ物を制限してはいけません。

 その他には、例年この時期にピークとなる溶連菌感染症と水痘(みずぼうそう)が流行中です。


● インフルエンザの報道を検証して、来年に備えましょう

1) インフルエンザの時に熱さましの坐薬は使ってはいけない?

 この情報は2-3年前からお知らせしていたものの繰り返しで、インフルエンザの患者さんにサリチル酸系医薬品(アスピリン、サリチルアミドなど)、ジクロフェナクナトリウム(商品名ボルタレンなど)、メフェナム酸(商品名ポンタールなど)を使うとインフルエンザ脳炎・脳症を悪化させる恐れがある、というものです。

 全国の小児科医はこれらの薬を使わなくなっており、当院でも世界的に安全性が確かめられているアセトアミノフェン(商品名アンヒバ坐薬、カロナール錠・細粒)しか処方しておりませんので、うちで出したものなら安心して使えます。(アメリカはアセトアミノフェン等の解熱鎮痛剤をやたらと使う国ですが脳炎・脳症が多いわけではありません)

 ただし、熱さましは「熱が高いときに熱さましで下げないと悪くなる」あるいは「熱さましを使うと早く良くなる」といった効果はなく、多用することによってかえって熱が下がるまでの期間が長くなる可能性も指摘されています(厳密には確かめられていませんが)。熱さましの薬は、どうしても具合の悪いときだけ「一時しのぎ」として使うのであれば目的に適っており、そこまで禁止する必要はないと思います。

2) 熱が出たらできるだけ早く薬を飲まないと脳症になる?

 情報によると、今年は全国で少なくとも30人以上の子がインフルエンザ脳炎・脳症で亡くなっているということです(100人以上で'97-'98年に次ぐ規模になるという推計も)。また、今シーズンの脳症の特徴として (1) 死亡例が従来の1〜3歳から0〜8歳に広がった (2) けいれんなど前兆がないまま急死する例が目立つ、の2点が挙げられています。

 脳炎・脳症については外国より日本で多くみられているなど病因がわからない点が多く、解熱鎮痛剤の関与も疑われてはいますが、冒頭に書いたように解熱剤を使っていない子も含まれております。また、早期に抗ウイルス薬を飲ませれば熱が下がるまでの期間が短くなるなどの効果は期待できますが、脳炎・脳症の発生を減らすことができるかどうかはまだわかっていません。

 今年は青森県ではさほどではありませんでしたが、全国的には中規模以上の流行となり、特にA香港型の流行の場合に小さい子の脳炎・脳症が発生しやすいようです。頻度的には、麻疹(はしか)の年間の患者数が10万〜20万人で死者は80〜100人、死亡率は発症者千人に1人の割合であるのに対し、インフルエンザ患者のうち脳症を発症するのは1万人に1人、死者は5万人に1人で麻疹の50分の1なのですが、500万人規模の流行になれば100人の死亡例が発生してしまうことになります。

 現在のところインフルエンザ脳炎・脳症の確立した治療法はなく、重症化を防ぐ方法としては予防接種が唯一の手段というのが全国の小児科医の一致した見解です。ただし、予防接種は効果が表れるまでに2〜4週間程度かかるため、シーズンの早い段階で接種する必要があります。

3) ワクチンの副作用で多くの人が亡くなったり後遺症を残した?

 この報道の解釈には注意が必要だと思います。「2000〜2001年度にインフルエンザの予防接種で計169人に副作用が起き、うち60歳以上の7人が死亡していたことが厚生労働省の調べで分かった。副作用を起こしたのは10歳未満の子どもと60歳以上の高齢者が全体の約65%を占めた。副作用の症状は発熱や頭痛、熱性けいれん、ショックなどで、大半は回復。死亡の7人の死因は急性肝炎、脳症、間質性肺炎などだった。同省によると、使用されたインフルエンザワクチンは2000年度に633万本、2001年度が871万本。1本を複数の人に使う場合もあるため、実際のワクチン接種者数は年1000万人以上とみられる」という報道です。

 まず、死亡の7人は全員60歳以上の高齢者で、一般的に基礎疾患を持っていることも多く、子どもと同列には比較できません。また、2年間で2000万人以上に接種していたとすると約300万接種に1人の割合であり、「紛れ込み事故」(因果関係は考えにくいが時期的に一致したため救済目的で副作用と認定されたもの)を含めて通常の予防接種で想定される200万接種に1人以下という数字を下回っています。

 高齢者に限らず、ワクチン接種時には基礎疾患の有無や接種時の体調などに配慮し、かかりつけ医で診察してから接種することが求められており、それはこれまでと同様に変わるものではないと考えています。当院では高齢者に対する接種は患者さんのご家族に限って行っており、かかりつけの内科がある場合には上記のような理由から内科での接種をお勧めしております。

4) 予防接種をしたのにかかったので無意味だ?

 インフルエンザの予防接種は厳密に言うと発症を防ぐほどの効果はありませんが、流行したときに「感染しても発症する頻度」が少なかったり、発症しても重症化したり死亡する割合が少なくなるというもので、麻疹などのワクチンとは最初から目的が異なります。その辺を踏まえていただければ決して「無意味」とは言えないと思います。従来、高齢者では上記の効果は明らかに示されており2年前から定期接種(一部公費補助)に組み込まれたのですが、ここ数年行われてきた調査の中間報告で小児でも同様の効果が示されてきているようで、経済的負担を減らす意味でも定期接種として復活することを期待したいと思います。

 また、インフルエンザは毎年型が変異するためワクチンの型と流行の型が一致しないと効果が発揮されないのですが、今年は全国的に一致している傾向で、当院でも例年より多くの方に接種したにもかかわらず、接種したのにかかったという方は少ない印象があります。ワクチンにはA香港型・Aソ連型・B型の3種類が含まれています。(ソ連という国はなくなってもウイルスにその名前が残っているのは面白いですね)

 なお、ごくごく一部の小児科医(具体的には毛利子来という人とその一派)が子どもへのインフルエンザワクチンの接種に反対しておりますが、彼らはそれを読んで予防接種をせずに死亡した子どもやその親に対して、どのように説明するつもりなのでしょうか。どの程度「偏った」意見かということは、彼らのホームページを少しでも読んでみればおわかりいただけると思います。「なにしろ、子どもにとって、インフルエンザはそんなに脅威ではなく、ものの3〜4日もすればほとんと治ってしまうのだし、まあカゼのひどいのくらいのものだから」などと平気で書いているような人なのですから。

5) 香港の新型インフルエンザで一家全滅?

 香港でこの2月に検出されたウイルスは、H5N1型という1997に出現して6人が死亡した「新型」インフルエンザと同じもので、今年はこれまでに少なくとも305人が発病し5人が死亡したと報じられています。ある5人家族では父と二女が死亡し、母と長男は感染したものの安定しているという話が伝わっています。1918年に出現した新型インフルエンザ「スペイン風邪」のときには、全世界で2500万人が死亡して第一次大戦での戦死者を遙かに越え、日本でも感染者は2500人、死者38万人を出し、今回の香港の家族と同じような悲劇が全国でみられました。この新型インフルエンザの流行が急激に拡大して日本にも侵入してくる徴候は今のところありませんが、今後も厳重な監視が必要でしょう。

 なお、新型インフルエンザの大流行(パンデミックと言います)の時には、ワクチンの優先接種(全国民に行き渡らせることは不可能)を含めて「国家危機管理体制」が必要になるはずですが、今のところそこまでの議論はなされておらず、大混乱になる可能性があると思います。


● 新たな戦争の世紀に、私たちができること

 米英によるイラク先制攻撃に反対するデモに世界中で1000万人もの人が参加したというのに、日本では僅か数千人で、世界でも屈指の好戦国と思われているのが実情です。もしものときに、核ミサイルやテロの標的になるのは日本、その中でも青森の可能性が高いと思いませんか?

 日本政府の米国によるイラク戦争実質指示撤回要請(オンライン署名)
 http://www.01.246.ne.jp/~aoyama/iken-moushiire1.html


○ 2〜3月の休診日、急病診療所、各種教室の予定

 2月21日はやむを得ぬ事情により臨時休診とさせていただきました。ご迷惑をおかけしたことをお詫びします。3月の急病診療所当番は4日夜と16日昼、29日夜です。次回の赤ちゃん教室は3月15日(土)です。

 八戸線の「SLうみねこ号」運行は4月1日と4日〜6日の4日間。試乗会は3月30日の日曜日…。

 2003年4月7日 鉄腕アトム誕生


発行 2003年2月28日 通巻第83号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
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