■ くば小児科クリニック 院内報 2002年9月・10月合併号


● 10月から乳幼児と高齢者の医療費自己負担が変わります

 7月に与党の強行採決で決まった健保法により、10月と来年4月の2回にわたって医療費が改定されます。この結果、3歳未満だけは3割から2割負担に引き下げられますが、高齢者(10月〜)および健保本人(4月〜)は窓口負担が大幅に引き上げられます。詳しくはここに書ききれない複雑怪奇な仕組みですので、別紙にチラシを同封いたします。

 改定のたびに多くの方が誤解される点ですが、自己負担割合が増えても「医療費が上がる」わけではないため、医療機関の儲けが増えることは決してなく、むしろ受診抑制のために大幅な減収となるはずです。誰が得をするのか? それは、保険者(企業や市町村)と国です。

 あるいは、今回の改定では3歳未満の窓口負担が減りますが、6〜7割の家庭には市町村から無料券が発行されています。それ以外の方にとっては家計の負担が減り朗報と言えるものの、多くの方にとって無料であることに変わりはなく、財政が助かるのは補助の分が浮く市町村なのです。ですから、その分の予算を他に流用せずに乳幼児医療費補助の拡大に向けるよう働きかけていくことが必要です。

 そして、更にこの先には医療費の抜本改革が控えています。今後また議論されていきますが、その都度お知らせしたいと思います。


● 予防接種情報

[1] インフルエンザの予防接種が始まります(10月後半〜)

 今年度も冬の流行に備えて10月後半から入荷次第インフルエンザの予防接種を開始しますので、予約を受け付けております。例年通り、小児には2回の接種が勧められます。昨年のワクチンは、A香港型とAソ連型は流行株と一致し、B型はワクチンと違った型の流行がみられたことから今年は変更になっています。

 接種する場合は、なるべく年内に2回目が終わるようにスケジュールを組みましょう。流行が始まってから接種してもほとんど効果は期待できません。

 なお、昨年から法律が変わって、高齢者は公費で接種できるようになりました(一部負担あり)。

【1】任意接種 = 全額自費 … 0歳〜64歳

◎ 対象

○ 生後6か月未満 : 積極的に接種を勧めているわけではありませんが、接種すれば抗体は上昇することがわかってきました。本人ではなく家族が予防接種を受ける方法もあります。
○ 生後6か月以降 : 保育園に行っている子やハイリスク児を中心に、希望があれば特別な問題がない限りどなたでも接種できます。特に接種が勧められる方は...
・心臓病、腎臓病、呼吸器の病気(喘息を含む)などの慢性の病気がある方
・乳幼児および高齢者、家族に乳幼児や高齢者がいる方
・教師、保育士、医療・福祉関係者、警察・消防関係者など

◎ 方法と料金(ワクチン代を含む)

・1歳未満:0.1ml 皮下注 × 2回 (*,000円/回)
・1〜5歳:0.2ml 皮下注 × 2回 (*,000円/回)
・6〜12歳 :0.3ml 皮下注 × 2回 (*,500円/回)
・13〜64歳:0.5ml 皮下注 × 1回または2回 (*,000円/回)
 今年から年少児は量に応じて価格を下げました。なお、任意接種の料金は病院によって異なります(統一価格は独禁法違反です)。また、料金=ワクチン代ではありませんのでお間違いなきようお願いします。

【2】予防接種法による高齢者への接種 … 10月20日〜12月20日(八戸市・階上町)

◎ 対象

・65歳以上の方(希望者のみで義務ではありません)
・60〜64歳で、心臓、腎臓、呼吸器、HIVにより免疫機能に障害を有する方

◎ 方法

・0.5ml 皮下注 × 1回(ウイルスの型に大きな変異がある場合は2回)

◎ 料金

・八戸市、階上町:自己負担は1,000円(残りは自治体から補助)

※成人および高齢者への接種は、当院に通院されているお子さんのご家族に限らせていただいております。持病のある方は、なるべくかかりつけの内科医で接種を受けて下さい。

[2] 小学校6年生の二種混合は10月末まで

 八戸市および階上町の小6二種混合は10月31日までの期間限定となっています。11月になると自費になりますので、忘れずに済ませておくようにしましょう。

[3] 来年度以降のポリオ、BCGの動向(最新情報)

 新聞などで先走った情報が流れて混乱をおさめるためにこの院内報でもすでに解説した話題について、先日開催された医師会の予防接種研修会で国立感染症情報センターの先生から得た最新情報をお伝えします。

 1) 小中学校のツ反・BCGは、来年度からなくなる見込みです。これは、法律の改正なく省庁からの通達で対応できるとのこと。

 2) 乳幼児のツ反・BCGについては、ツ反を行わずに生後6か月までにBCG接種を行う方針になっていますが、こちらは法律の改正が必要なため、来年度は現行通りにツ反陰性者のみ接種になる見込みです。また、生後6か月までにほとんどの子が接種を済ませるためには、現行の集団接種(7・8月のみ)では不可能なため、個別接種に移行するなどの自治体側の対応も必要となります。

 3) ポリオの野生株は西太平洋地域では根絶されているため、副反応をさけるために生ワクチンから不活化ワクチンに移行することが予定されていますが、日本にはまだ認可を受けた不活化ワクチンがないことや、今までの経口接種(=飲むだけ)から三種混合や日本脳炎と同様の複数回接種が必要な皮下注射(=痛い)に変更になること、更にこちらも法律の改正が必要なことなどから、来年度は現行通り生ワクチンが続けられる見込みです。

 いずれについても、新しい情報が入りましたらまたお知らせします。


● 「子どもの事故予防といざというときの応急処置」 平成14年9月20日 健康教室 於:白銀公民館

 1歳以上の子どもの死因1位は不慮の事故であり、単なる「不注意」や「親の責任」としてではなく、子どもの最大の健康問題として科学的に予防していくことが必要です。「目を離さないで」では、事故はなくなりません。少し目を離しても大丈夫な環境づくりが大切です。

 大きな事故は氷山の一角であり、幼児の死亡1件に対して入院65件、外来受診4,500件、家庭で処置10万件、無処置で様子をみる事故が19万件おこっています。スウェーデンのレベルまで事故が低下すれば、年間500〜600人の子どもの命を救うことができます。

 予防する必要性の高い事故は、(1) 重症度が高い事故(溺水、交通事故)、(2) 発生頻度が高い事故(誤飲、やけど)、(3) 増加している事故、(4) 具体的な解決方法がある事故です。

 溺水は特に重症度が高く不慮の事故死の2割を占め、0〜1歳の溺死の8割、年間に70〜80人の乳幼児が浴槽で溺れて亡くなっています。洗い場から浴槽の縁までの高さが50cm以下の浴槽は転落する危険性が高いことを認識し、2歳になるまで残し湯は厳禁とします。入り口に鍵や留め金をつけたり、子どもだけで入浴させないようにします。バリアフリーの考えで浴槽の縁が低い家庭が増え、災害対策で残し湯が推奨されており、溺水の危険性はむしろ増加しています。ビニールプールやバケツなど、10cmの水深でも溺水は発生しています。

 0〜19歳の不慮の事故死の6割は交通事故です。チャイルドシートは2000年に義務化されましたが、事故例での装着率は低く、不適切な装着も多いようです。上端を思いっきり引っぱって動くのが3cm未満なら適切に装着され、3〜10cmだと緩く、10cm以上動くときには役に立ちません。

 口径が39mm以下のものは誤飲したり窒息をおこすので、床面から1m以内の場所には置かないようにします。タバコ誤飲の70%は0歳児で、8か月が最も多く、総相談件数の16〜17%で毎年トップです。根本的な対策は乳幼児の環境からタバコを一切なくすことです。

 気管支異物はピーナッツが多く節分の後に多発します。3歳になるまでピーナッツは食べさせないようにし、放り投げて口に入れるような遊びもさせないようにします。

 ベビーカーからの転落予防にベルトを忘れないようにします。歩行器やクーファンは危険かつ不必要で、カナダでは歩行器の販売は禁止されています。

 毎年、子どもの3人に1人はやけど(熱傷)をしており、そのうち1割は医療機関にかかり、その1割は入院、入院した人の1割は重症で、その1割は死亡していると言われています。やけどの80%は家庭内で 、そのうち50%は台所でおきています。加湿器や炊飯器の蒸気によるやけどで手指の拘縮を残すことがあります。

 乳幼児突然死症候群(SIDS)は事故ではありませんが、乳児期の死亡原因の第2位で、(1) あおむけ寝 (2) タバコを吸わない (3) なるべく母乳栄養にするなどの予防対策によりSIDSを減らすことが可能です。

 救急蘇生のABCについて一通り解説し、ハイムリック法、昏睡体位、やけどや出血・鼻出血の対処法などについても触れておきました。

 家族の喫煙は誤飲やSIDSだけでなく、流早産、低身長、低知能指数、喘息性気管支炎や中耳炎、受動喫煙によるガン、将来の喫煙習慣など、子どもの生涯にわたって深刻な影響を及ぼします。家族全員の禁煙を強くお勧めします。

 予防接種で防げるはずの麻疹で年間約80人の子どもが亡くなっており、青森県は全国ワースト1の流行県になりました。1歳の誕生日が過ぎたらすぐ麻疹の予防接種を受けましょう。


院内版感染症情報 〜2002年第39週(923-9/29)


        2002年 第25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39週
インフルエンザ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
咽頭結膜熱        0  0  0  1  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
A群溶連菌咽頭炎  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  2  0  0
感染性胃腸炎      4  1  3  4  1  0  1  4  3  2  1  1  2  6  2
水痘              1  0  1  0  1  0  0  0  2  0  1  0  2  1  0
手足口病          0  0  0  0  1  0  0  0  1  2  0  0  1  0  2
伝染性紅斑        0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
突発性発疹        1  1  0  0  0  0  0  0  5  2  2  1  1  1  0
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    1  3  2  6  0  3  1  5  0  2  0  3  2  0  0
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  0  1  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    2  1  0  0  0  1  2  3  1  2  0  0  0  2  0
☆ 夏かぜの流行は下火に、秋風と共に咳の出るカゼと喘息発作増加中

 夏かぜの代表であるヘルパンギーナはほぼ終息しましたが、手足口病は例年通り保育園を中心にダラダラとした小流行が続いています。

 9月に入って増えてきているのは、咳が出てひどくなるタイプの風邪で、その中にはマイコプラズマという病原体によるものも含まれているようです。下痢したり吐いたりするウイルス性の胃腸炎も増加傾向ですが、もう少し寒くなってくると急に増えますので注意が必要です。

 そして、これは感染症ではありませんが、例年通り喘息の発作が増えてきています。普段コントロールが良い場合でも、この時期には手を抜かずにしっかりと管理して、悪いときには早めに受診しましょう。

 夏休みに麻疹(はしか)の患者さんがお一人受診されましたが、この子は首都圏から来た予防接種をしていない年長児でした。何故しなかったのかきいたのですが明確には答えず、いわゆる「予防接種拒否派」の方とお見受けしました。しかし、実際に病気にかかって苦しむのは親ではなく子どもであること、そして、このようにして流行は全国に巻き散らかされ、繰り返し止むことはなく、その中で重症化していくのは「予防接種年齢に達していない乳児」であることをどのように考えるのでしょうか。今回は幸い二次感染がなく済みましたが、麻疹の予防には今後も細心の注意を払い95%以上の高い予防接種率を達成し維持していく必要があります。周辺町村の予防接種広域化などの全県的な運動も小児科医会などが中心となって進めているところですが、また報告します。


● 禁煙外来のお知らせ(第2報)

 禁煙支援診療は保険で認められていないため、全額自費となります。できるだけ負担が少なく受診できるようにしますが、別に掲示およびチラシでお知らせします。予約は今からでも随時受け付けております。

 時間帯は、月火木金の17:45〜18:15を予定していますが他の時間でも随時可能です。診察時間は初診時20〜30分、以降は10〜15分程度で全4〜5回を目標とします。なお、対象者は当院通院児の父母・祖父母としていましたが、未成年(兄姉や本人)の禁煙支援も行うことにします。


● 核燃問題の署名にご協力ありがとうございます

 9月5日現在、141名もの方から再処理工場凍結の署名をいただきました。大変ありがとうございました。署名は9月末でいったん取りまとめられるようですが、その後も受け付けておりますので引き続きご協力をお願いします。また、署名いただけない場合でも資料はご覧下さい。

 ここ1か月ほどの間に、原発や原子力行政がどのようなことをして国民をだまし続けてきたのかが明らかになりました。福島県や新潟県の知事も、青森県の知事も、同じ「安全性」を盾にして怒っているように見えますが、顔の向きは180度違うようです。一方は「こんなことで県民の安全が守られるのか」という怒り、もう一方は「こんなことでは事業が推進できなくなる=お金が落ちなくなるではないか」という怒り。見ていてそんな雰囲気が伝わってきませんでしたか?

 核燃サイクル構想は、「もんじゅ」のナトリウム漏れ大事故で一旦はついえて、その輪を取り繕うために後から出てきた「プルサーマル計画」も、ここで白紙に戻りおそらく甦ることはないだろうと思います。もちろん、そうなるとMOX燃料工場どころか再処理工場自体が不要となり、高レベル廃棄物だけが残されることになりかねません。

 6月号に書いたことは決して遅くはなかった。私たち一般県民は、転換点に立ってこの県のあり方を自ら判断していく必要がありそうです。


● 待合室の新しい本・絵本

「じごくのそうべえ」(田島征彦)
「予防接種は安全か」(神谷 齊・監訳)
「ほんとうのアフガニスタン」(中村 哲)
「からくり民主主義」(高橋秀実)

…待合室の本は、いずれも貸し出し可能ですのでご利用下さい。


○ 9月〜10月の休診日、急病診療所、各種教室の予定

 9月28日(土)の午後は14時までで、10月は全て暦通りの診療です。11月9日(土)は学会のため午後休診の予定です。急病診療所の当番は10月14日(祝)昼と27日(日)昼。次回の赤ちゃん教室は11月16日(土)です。


発行 2002年10月3日 通巻第78・79号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
TEL 0178-32-1198 FAX 0178-32-1197
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