■ くば小児科クリニック 院内報 2000年12月・2001年1月合併号


● 新世紀、あけましておめでとうございます

 12月号の発行が遅れてしまったので、20世紀最後の号と21世紀最初の号が一緒に発行されるという妙な具合になってしまいました(毎日の仕事に流されてズルズルと引き延ばしていた自業自得ですが)。これから春まではインフルエンザをはじめとした感染症の流行る季節で、4月になると当院も開院5周年を迎えることになります。

 昨年は2000年問題で大騒ぎの中での年越しでしたが、今年は新世紀という言葉だけが踊っているものの静かな年明けとなりました。しかし、健保法の改正など医療の世界でも様々な変化がみられようとしています。社会に目を向けても、少年の犯罪がクローズアップされ、小さな子どもが虐待で命を落としています。小児科医としてできることは限られているのですが、小児科が子どもにとって安心して通える場であるよう努めることと共に、保育や福祉関係者などとの連携を深めていく必要を感じます。その手始めというわけではありませんが、1月には保育関係者の前で少しお話しをさせていただくことになっています。

 前世紀から生き続けている(...)大人として、新世紀を生きる子どもたちに少しでもましな社会を残してあげるために、今年は少しずつ診察室の外にも出て活動していきたいと考えています。

2001巳イラスト


院内版感染症情報 〜2000年第52週(12/24-12/30)  *インフルエンザ注意報発令中*


         2000年 第38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52週
感染性胃腸炎      4  1  3  2  4  7 12 15 37 30 41 16 21 17 16
水痘              0  0  2  0  4  2  3  6  0  9  5  2  5  5  5
突発性発疹        1  2  1  0  1  1  1  3  2  2  3  5  0  1  4
インフルエンザ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  2  4  2  3
伝染性紅斑        0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1
溶連菌感染症      2  0  0  2  0  0  1  0  2  1  0  2  1  1  0
ウイルス性発疹症  1  0  0  0  0  2  1  0  0  0  1  0  1  0  0
流行性耳下腺炎    0  1  1  0  0  0  0  0  0  1  1  0  0  0  0
手足口病          2  3  3  2  3  5  2  3  2  2  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  2  2  1  1  0  1  0  2  1  0  0  0  0  0
 11月号にも書きましたが、10月頃からみられていた嘔吐と下痢が主症状のウイルス性胃腸炎が11月中旬から急増し、12月に入ってやや下火にはなりましたがまだ続いています。毎回書いているように、吐き気のある最初の半日(一晩)に水分を取らそうとして吐くのを繰り返すとかえって悪化しますので、最初はできるだけ絶食の時間を長くとるようにしましょう。この時期に流行るのはSRSVといってあまり重症化しないタイプなので数日で良くなることが多いのですが、1月から2月にかけて流行るロタウイルスの場合は、嘔吐も下痢も続きやすいので、注意して看病してもらう必要があります。

 保育園では水痘の流行がみられています。例年この時期が多くなる季節にあたります。溶連菌感染症はもう少し大きい子が中心で、これも年末にかけて増加傾向のようです。

 一番多いのは、数字には出てきていませんが、咳で痰がからんで気管支炎気味に経過するタイプの風邪で、咳の多い時期が1週間くらい続くようです。この中で、冬場に流行るRSウイルスというウイルスに乳幼児が感染すると、細気管支炎というゼーゼーして苦しくなる状態に急速に進展する場合があり、注意が必要です。そして、

○ インフルエンザの流行期に入りました

 12月に入っていよいよインフルエンザの流行が始まりました。全国の小児科医のメーリングリストでも情報を交換していますが、全国的にも12月の最初の週から報告が増えてきており、当院でもA型インフルエンザの迅速キットで陽性患者が出たのは12月9日でした。昨年が22日でしたので約2週間早くなっています。流行が本格化するのに1か月くらいかかるかと予想されますが、学校の冬休み期間に重なりますのでもう少しあと(1月中旬〜下旬)かもしれません。いずれにしても、昨年よりも早めと考えておいたほうが良さそうです。予防接種の2回目がまだの人は早めに済ませるようにしましょう。なお、院内のワクチンの在庫は予約分のみで、新たな接種(1回目)の受付は終了になります。その後の入荷は今のところ無い見込みで、他の医療機関で余った分が入手できるかもしれませんがわかりません。毎年、流行が始まってから接種を希望される方がいらっしゃいますが、効果はさほど期待できません。インフルエンザの治療、看護については次号でも少し触れるつもりです。

− 最近4年間のインフルエンザ患者数の比較(当院) −


        第49 50 51 52 01 02 03 04  05  06 07 08 09 10 11 12 13週
1997-1998 *0  0  0  0  0  0  5 42 146 131 53 20  0  0  0  0  0
1998-1999  0  0  0  0  0 22 37 41  52  28 15 12 20 18 36 11  7
1999-2000  0  2  8  5  8 14 16 51 125  88 36 27 11  5  2  1  0
2000-2001  2  4  2  3
(*1997年は50-53週)


● 1月から老人医療費の窓口負担が変わります

 小児科には直接関係がないのですが、11月末の国会の混乱の中で健保法と医療法が改定され、2001年1月1日から高齢者の窓口一部負担金が増額されることになりました。しかも、定率1割負担と定額負担の2つを医療機関が自由に選ぶことになったため、医療機関によって同じ診療内容でも自己負担額が異なることがあり得る仕組みになりました。

 もう少し説明しますと、今までは高齢者は診療内容に関わらず1日530の定額で月4回(計2120円)まで、それを越えた分は自己負担なしとなっておりましたが、改定後は【定額制の場合】1日800円で月4回(計3200円)、【定率1割の場合】月額上限3000円(院外処方の場合は医療機関と薬局それぞれ1500円)、ベッド数200床以上の大病院の場合は上限5000円になります。

 定額制と定率制でどちらが自己負担額が多くなるかは、診療内容や通院回数によって異なりますので一概に比較できませんが、特に大病院に通う必要のあるような重い慢性の病気の場合には負担が重くなります。

 なお、誤解される方がいらっしゃるかもしれませんが、この改定によって「医療費」が上がるのではありません。診療報酬の体系は同じままで、その中で患者さんが窓口で払う「自己負担額」が増えて、保険者である国や企業の健保組合の負担が減るだけで、医療機関の収入が増えるわけではないのです。この改定に際しては、反対の署名にご協力いただきありがとうございました。

○ 乳幼児医療費補助の拡大を求める署名にご協力いただきありがとうございました

 県内の医療機関から千数百名の署名が集まり、木村知事に提出されました。県の財政事情も苦しい中で、実現するかどうかは全くわかりません。お隣の秋田県では外来治療費の窓口負担も入学前まで補助が出るようになっており、知事の福祉日本一・赤ちゃん日本一というスローガンが言葉だけのものでないことを願いたいものです。

 なお、この運動は医療関係者だけでなく母子保健関係の団体でも同じような署名が行われているようます。

 また、これとは別に水痘、おたふくかぜ、インフルエンザなどの任意接種の予防接種代半額補助も小児科医会から八戸市に求めておりますが、これまた財政難のおり実現のためのハードルは高そうです。


● こんなものいらない?

 このコーナーでは、クーファン、歩行器、赤ちゃんの手袋や足の部分が袋状になった服などをとりあげてきましたが、今回はケガや熱の時によく使われていてる商品です。

○ その1「キズドライ・パウダースプレー」

「ジュクジュクした傷口にスプレーするだけで、スリ傷、キリ傷などの浸出液を吸収してサラサラにする殺菌消毒薬」だそうです。

 この製品が出たときに、何かうさんくさい感じがしたのですが、やはり救急外来などでの評判はすこぶる良くありません。「ご使用前に傷口の汚れをよく洗ってからご使用ください」と書かれてはいますが、土がキズの中に入っているような汚い傷口を、素人が常に充分に洗い流せるとは思えません。その上にキズドライをスプレーすると、汚れや細菌が入った状態で表面がパックされてしまい、中で化膿してくることになります。これを治療するためには、表面のかさぶた状のものを痛い思いをさせて無理にはぎ取らなくてはいけなくなります。

 そういうわけで、どなたにもお勧めしてません。

 その2は「冷えピタシート」なのですが、次号にまわします。


● 診察の時に...

 冬場で混んでくると、どうしても一人あたりの診察時間が短めになり、不本意ながら説明も簡単になりがちです。薬の飲み方とか、お風呂に入っていいかどうか、保育園・幼稚園などにいつから行けるか、次回の受診はいつにしたらいいかなど細かなことで聞きそびれたことは、診察が終わったあとでスタッフから説明しますのでお確かめ下さい。

 なお、熱があるときには、最低1日以上(インフルエンザの場合2日以上)熱が出なくなったことを確かめてから登園・登校させるようにしましょう。熱には日内変動があり、朝は低めになりますので、前の晩に熱があって次の日の朝に下がったからといって登園させると、昼からまた上がって呼び出されることになります。急がば回れ、病気は1日では治りませんので、焦らずに良くなってから登園させる方が本人にとってもお母さんにとっても楽で確実な道です。


● まっすぐ座れるかな...その後

 これも同じような記事を以前に書きましたが、3-4歳から小学校低学年くらいの年代(特に男の子)で、診察の時に背中を丸めたりクネクネしたりするので、椅子の真ん中に座って体をまっすぐにして座るように何度も言うことがあります。そうすると今度は手を膝について肩肘を張って支えようとする。肩の力を抜くようにさせるととたんにグンニャリと丸くなっておじいさんになってしまう。

 何も当院で礼儀作法の修行をさせたいと思っているわけではなく、もちろん私自身そんなことを言えるようなガラではありません。しかし、変な体勢だと自然な姿勢での呼吸音を聴くことができずに診察に時間がかかったりきちんと診断できないので仕方なく言っているのです。

 思い返してみると、10年前にはこのようなことを気にすることはほとんどなかったように思います。昨年の毎日新聞に連載された「子どもが危うい」という特集の第1回がやはり子どもの姿勢の話で、授業中にアクロバティックな座り方しかできない子が急増しているという小学校の先生の話でした。そこでは、その原因として家族全員で食事をする機会が減っていることなどがあげられていました。それが当たっているかどうかはともかくとして、私が感じていることと似たようなことでホッとしていいのやら何やらおかしな話です。この特集子どもを巡る様々な問題を取り上げて昨年1年間続きましたが、ホームページ(http://www.mainichi.co.jp/life/women/watch/01/1-1.html)でその全編を読むことができますので興味のある方はそちらをご覧下さい。下記のイラストはその記事からの引用です(省略→上記リンクで)。


● 深浦町の「無煙のまち」づくり、ピンチ!

 深浦町では、未成年者の喫煙率ゼロ%の「無煙のまち」づくりを目指して、町内のたばこの屋外自動販売機すべてを撤去させるという画期的な条例づくりを進めていますが、これに対して全国のたばこ業界関連団体がその下部組織に「偏見に満ちた暴挙を阻止しなければ」と反対意見書を提出するよう協力を求める文書を送付していたという報道がありました。東奥日報をご覧になっていないとご存じないかもしれませんので、下記のホームページの記事を参考にして下さい。

  http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2000/nto20000915.html
  http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2000/nto20001221.html

 たばこ問題を巡っていろいろな立場の方がいらっしゃるのは理解できますが、たばこ関連団体には同じく昨年、厚生省の健康日本21計画で喫煙率半減という数値目標を撤廃させようとした「実績」があり、深浦町の条例制定も大ピンチと考えて間違いないでしょう。

 深浦町の平沢町長は「町民の理解と協力を得るよう頑張りたい。もちろんお金より健康の方が大切。長い目で見れば町にとってもプラスになる。」と訴えています。子どもたちの健康はお金では買えません。喫煙は予防が何よりも大切です。そのために、より良い環境づくりを目指す町長の姿勢を私たちは応援したいと思います。(短期間ですが署名運動にご協力をお願いします)


● 予約時間についてのお願い

 この時期になると毎年同じようなことを書いていますが、特に朝の予約時間について、

1)予約はできるだけ電話がかかってきた順に早い時間帯から入れたいので、11時とか11時半にしたいといった希望はなるべくおっしゃらずに、早めに来院できる準備をしながら予約の電話をするようにしてください。皆さんが遅い時間帯を希望されますと、予約制をとっていない医院の方が朝から効率的に診療できるという事態になりかねませんので、ご協力の程よろしくお願いします。

2)現在、予約時間の15分前の来院をお願いしています。特に9時台など早い時間の方が遅く来院されますと、予約はぎっしり詰まっているのにポッカリと空いてしまい、後の方たちにしわよせが来るような事態が時々みられます。早い時間帯の方ほど早めの来院をお願いします。


● 2001年の医療、未来への旅(...ちと苦しいが)

 →これも書いたのですがスペースがなくなりましたので次号に。


発行 2001年1月6日 通巻第57・58号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
TEL 0178-32-1198 FAX 0178-32-1197
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