■ くば小児科クリニック 院内報 2000年11月号


● インフルエンザとポリオの予防接種 Q&A

<インフルエンザ>

○ 1歳未満の赤ちゃんにも接種した方が良いのでしょうか?

 乳児への接種はどこの小児科でも経験が少なかったのですが、昨シーズンに多くの乳児に接種した施設では、乳児でも抗体の産生は良好で特に副反応はみられませんでした。今まで一度もかかったことのない子の中に重症化する子がみられる傾向にありますので、乳児への接種は理論的には勧められますが、6か月未満の赤ちゃんが自分で外に出て感染することはまずありませんので、保育園に入っている子を中心にした6か月以上の乳児には希望があれば接種することにしています。6か月未満の子で心配ならば、両親や兄弟が接種すると良いでしょう。

○ 学童には無効だと新聞に載っていましたが?

 それは、集団防衛としてかつて学童に行われていた予防接種が流行自体を防ぐことはできなかったという意味です。インフルンザのワクチンは麻疹などと比べると弱いので、感染を防ぐことはできなくても重症化を防ぐことが目的になります。しかし、昨年の流行のときにも、全員が接種した老人施設では流行がおこらなかった例も報告されています。

○ どうして毎年2回ずつ接種しなくてはいけないの?

 インフルエンザのワクチンは、流行の主力となるA香港型、Aソ連型、B型(A型よりも重症化しにくい)の3つについて毎年世界中のウイルス検出状況から判断して WHO で決められたものです。毎年少しずつタイプが変わっていますので、前の年に予防接種していても、次の年の流行には効果はありません。大人や老人では1回接種でも効果がみられることが多いので1回でも構わないことになりましたが、上記のように基本的に効果が強いワクチンではありませんので、小児には2回ずつ接種しなくては効果は期待しにくいのです。

○ 今年はいつ頃から流行しはじめるのでしょうか?

 八戸では冬休みが終わって1月下旬から流行が本格的になることが多いのですが、その場合でも1か月くらい前から流行しはじめるのが普通です。これを書いている11月中旬の時点で既に国内で患者の発生が確認されています。予防接種をする場合には年内を目標にしましょう。

○ 熱さましを使うと脳炎・脳症になると聞いたのですが?

 今回報道されたこのニュースの中身は昨年お伝えしたものの続きで、ボルタレンおよびポンタールという薬が脳炎・脳症を起こした患者の中で多く使われており、脳炎・脳症患者に対するボルタレンの投与を禁止するということです。ボルタレンは当院では処方したことはなく、ポンタールも昨年から既に使用しておりません。。  現在当院で使っているアセトアミノフェン(商品名アンヒバ、カロナール)は小児に安全に使える薬として世界中で第一選択の薬とされており、今回の検討でも全く問題はありませんでした。  ただし、いつも言っているように熱さましは病気を治す薬ではありませんので、乱用は慎むようにしましょう。

○ どうして加湿すると良いのですか?

 インフルエンザは冬の乾燥する時期に流行しますが、実は流行の条件としては寒さよりも乾燥の方が大きいのです。
 朝起きたらノドがイガイガすることは経験があるでしょう。
 インフルエンザは手洗いとかマスクでは予防できるものではありません。それよりも、寝室をはじめとした部屋の加湿をすることの方が有用だと思います。
 また、既に風邪をひいてしまって咳がひどかったり鼻づまりで眠れないような場合でも、加湿することでかなり楽に過ごすことができるはずです。
 ただし、部屋によっては結露やカビの原因になることがありますので注意して下さい。

<ポリオ>

○ ポリオは根絶されたので予防接種は必要ないのでは?

 今回WHOから、日本を含む西太平洋地域でポリオの根絶が確認されたという発表がありました。実際には国内では1970年代から、西太平洋地域でも1997年から野生株によるポリオの患者は発生していません。ですから、今回の発表は輝かしい一歩ではありますが、新しい事実ではなく、現在の状態を年月をかけて確認したという意味になります。しかし、西南アジアおよびアフリカでは毎年6000人以上のポリオ患者が発生しており、2000年を目標にして進められてきたWHOのポリオ根絶計画は2005年に繰り下げられてしまいました。

 現在のように国際的な交流が盛んな時代には、ウイルスの侵入はいつどこであってもおかしくありません。そのときにその国で免疫状態が落ちていれば、再びそこで流行がおこり、元の木阿弥となってしまいます。その結果として、さらに根絶までの年月が延び、予防接種を続けなくてはいけなくなります。ですから、全世界で根絶が確認されるまでは予防接種によって免疫を保っておく必要があるのです。

○ 不活性化ワクチンが導入されるまで待った方が良いのですか?

 いま日本を含めて世界の殆どの国で使われているのは、生ワクチンで、弱毒化されてはいますが生きているウイルスです。生ワクチンは効果が高く、国内でも1961年から接種が開始され、ほぼ10年間で患者ゼロの状態になったのです。その後の1970年から30年間で、国内で36例のポリオ患者が発生しており、これらは全てワクチン関連のものとされていますが、実際にワクチンを接種した人は20%で、残りは接種者との接触例か、不明の方たちです。

 現在まで、ワクチン関連の麻痺は400万接種に1例とされていますが、野生株による患者の発生がない状況ではこの数字もゼロにしたい。しかし、予防接種自体は根絶まで続けなくてはいけない。そこで、アメリカなどでは不活性化ワクチンが昨年から導入されています。不活性化ワクチンは麻痺例はゼロになりますが、効果が薄いので三種混合のように複数回(アメリカでは4回)の接種が必要になり、しかも、経口投与ではなく注射になります。また、不活性化ワクチンとはいえ、副反応はゼロではありません。上記の400万接種に1例というポリオ生ワクチンの副反応も、決して悪い数字ではないのです。

 そういうわけで、現在厚生省でも検討が始まっていますが、もし導入されるとしても1年以上はかかるでしょう。接種回数を減らすために他のワクチンとの混合投与なども考えられており、その場合は更に導入まで時間がかかると思われます。

 現段階では、これまで通りの生ワクチンを服用するのが唯一の選択肢となります。


院内版感染症情報 〜2000年第44週(10/29-11/4)


        2000年 第30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44週
感染性胃腸炎      4  9  6  0  3  5  4  3  4  1  3  2  4  7 12
水痘              0  0  1  0  1  0  0  0  0  0  2  0  4  2  3
手足口病          5  4  2  3  3  4  4  4  2  3  3  2  3  5  2
ウイルス性発疹症  1  2  1  0  1  0  0  0  1  0  0  0  0  2  1
突発性発疹        1  1  3  3  1  1  1  2  1  2  1  0  1  1  1
ヘルパンギーナ    3  3  1  2  3  1  4  0  0  2  2  1  1  0  1
溶連菌感染症      0  0  0  0  0  0  1  0  2  0  0  2  0  0  1
流行性耳下腺炎    1  4  2  3  2  1  2  1  0  1  1  0  0  0  0
 10月から11月にかけて、先月号で予告したとおり吐いたり下痢したりする「お腹に来る風邪」(ウイルス性胃腸炎)が急増してきています。この時期に流行るタイプは真冬のロタウイルスに比べると軽症ですむ場合が多いのですが、吐き気のみられる最初の半日(一晩)はとにかく絶食です。水分や薬のとり方などについては、パンフレットをご覧下さい。

 もう一つは、咳が短期間でひどくなるタイプの風邪です。悪化して検査した人のデータをみても、ウイルス性ということしかわかりませんが、痰が絡んだりして一週間+αかかるようです。お部屋の加湿で少し楽に過ごせるようになるはずです。年長児では頭痛、腹痛、咽頭痛といった初期症状ではじまる風邪もみられます。

 溶連菌感染症は例年この時期から年末にかけて多く、今年もその傾向がみられています。手足口病はさすがに下火でしょうか。インフルエンザは年明けからと思われますが、既に国内で患者の発生がみられはじめています。


発行 2000年11月19日 通巻第56号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
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