■ くば小児科クリニック 院内報 2000年5月号


● BeFM健康相談 〜「新学期によくみられる症状」 (2000年5月1日放送)

◎ 相談

「小学1年の女の子。学校が始まってから眠れない日が続き辛そう。ベットに入ってから2時間位眠れない。緊張のためか。眠らせるためには、どうしたらいいか」

◎ 回答

 新学期が始まって1か月が過ぎ、お子さんもご両親も、張り切って通っていることと思います。丁度ゴールデンウィークがあって一息つく機会になりますが、その後に五月病が出てくることもあるようです。

○ この子の場合、学校が始まってから眠れないとのことですが?

 以前からそうだったわけでなければ、緊張やストレスからくるものでしょう。特に小学校に上がるときは環境や生活の変化が大きいので、ある程度の緊張は多かれ少なかれどの子にもみられるものですが、緊張が強くなりやすく、そのために腹痛や嘔吐、頭痛などの身体症状を伴うこともあります。

○ 子どもの緊張とストレスについて

 ストレスというのはどんな年齢でもあるものですが、ストレスによる症状が出たから「大変だ」と思わないこと、ストレスを「克服しなくてはいけない」と思わないことが大切です。身体症状が表れてくること自体はむしろ健全な反応であり、外にサインがでてくるのは内にため込むよりも対処がしやすいことが多いのです。

○ 子どもにも不眠症はよくみられるのでしょうか?

 子どもでも眠れないという症状を訴えることはありますが、年少児の場合は大人と違って長引くことは多くないようです。眠れないことそのものを問題にして「眠らせよう」と考えずに、毎日の運動、遊び、食事、睡眠などの生活サイクルを整えるだけで解決する場合も多いと思います。この年齢では勉強よりも充分な遊びを心がけてみてください。

○ 友だちや先生との関わりは?

 学校はストレスもあるかもしれませんが、基本的には友だちがいて先生がいる、子どもの生活の場であり、本来は楽しいところのはずです。すぐに適応できる場合と時間がかかる場合とがありますが、ちょっとしたきっかけで大きく変わってくるかもしれません。まずは友だちが一人できれば気持ちが楽になるはずです。最初のうちは親同士で連絡し合うのも悪くないでしょう。

 先生にもいろいろなタイプの方がいるかとは思いますが、特に1年生の最初の時期は気をつかってくれているはずです。子どもにとって先生の存在は大きいので、先生に一言声をかけてもらうと学校が楽しみになるかもしれません。家庭訪問の機会やそれ以外でも随時連絡を取り合って、お家での様子を先生に伝えていくと良いと思います。

○ 家庭で、家族はどのようなことに気をつけて接していけばいいのか?

 ここが一番大事な点で、学校で緊張して家でも息を抜けないと気持ちの行き場がなくなってしまいます。家庭は大人にとっても子どもにとっても安息の場で、ホッとできるところでなくてはいけません。毎日、きちんと話を聞いて受けとめてあげて下さい。「頑張れ」や「忙しいからあとで」は禁句。ストレスは自分で処理しきれないときには他の人に一部を背負ってもらうのが一番の解決方法で、お父さんお母さんがストレスのクッションになってあげることが大切です。つい1か月前までは幼稚園や保育園に通っていた子ですから、急に手を離してお兄ちゃんお姉ちゃん扱いせずに、一緒になってできないところは手伝ってあげ、親が支えになってくれているという安心感の上で、段々と自立心を伸ばしていってあげるようにしてみましょう。

 一番簡単な方法は、少し小さい頃に戻って親子で川の字になって寝ることです。そして、眠らせようとしないで、眠るまでのんびりと本を読んだり話をしたりしてみてはいかがでしょうか。

○ 小児科を受診してみてもらうことはどうでしょうか?

 小児科医は子どもの心と身体の専門家ですから、風邪などの身体の症状だけではなく、育児や子どもの心の相談でかかっても構わないのです。まずは話を聞いて普通に診察し、身体の一般状態はどうか、隠れている病気はないかチェックします。その上で、そのまま適切なアドバイスなどで様子をみて良いのか、更に専門の医療機関の受診が必要かどうか判断します。

○ この子の場合、何かしらの治療が必要でしょうか?

 小さい子の場合、一般的な睡眠薬を使う場合は少ないと考えて良いでしょう。まずは、お話を聞いたり、お話しさせること自体が治療の第一歩です。緊張をとるタイプの漢方薬の適応はあると思います、実際には診察してタイプをみて決めるのですが、柴胡桂枝湯という薬が使えるかもしれません。そのほかに、お腹の症状が主な場合は小建中湯、疲れなどが目立つ場合は補中益気湯なども考慮に入れます。

○ その他に、よくみられる症状は? 〜「起立性調節障害(OD)」

 今お話ししたようなストレスに弱いタイプと重なり合う部分がある、自律神経の調節障害です。いわゆる朝おきが悪いタイプで、午前中は頭痛、腹痛、立ちくらみなどで具合が悪く、夕方から夜になると元気になります。小学校高学年から中高生に多く、女の子の方が多いとされていましたが、最近は低年齢化してきており、男の子でも同じようにみられるようになってきています。お母さんも同じようなタイプの場合が多いようです。

 不登校の子もODがベースにあることがあります。

○ ODの子にはどういったことを気をつけさせたら良いのでしょうか

 まずは規則正しい生活に心がけ、夜ふかしは避けます。食生活を改善し、コンビニ食などは避け、和食中心にします。日中の適度な運動や、冷水浴や乾布摩擦などで皮膚を刺激して自律神経を鍛えることもお勧めします。

 学校を休みがちな場合には血圧を調整する薬を使いますが、比較的即効性があります。1か月程度の短期間を目標にします。体質改善を目的に漢方薬を併用することもあります。効果がみられる場合は、ある程度長期間使っても構いません。

○ ちょっとした症状で学校を休みがちな場合、サボっているとか不登校の始まりなのではと思われがちですが? 〜 「不登校」

 今回は時間がないので詳しくは触れませんが、新学期が始まって少したった4〜5月や9〜10月頃から始まることが多く、小学校高学年以上では留意しておく必要があります。

 不登校の子の中にODがベースにある場合があります。特に初期の段階では腹痛、頭痛、微熱などの身体症状を伴う場合が多く、本人は学校に行きたいのだけれど朝になると具合が悪くなり、夕方になると元気になって明日は登校しようと思うのだが翌日また行けないという繰り返しになります。不登校が固定化してくると身体症状はなくなることが多いのです。

 初期の身体症状はいわゆる心身症としての症状なのですが、どのようなものがベースにあるにせよ、まずは身体症状からアプローチして、その症状を和らげてあげることが大事です。本人は病気ではないかと心配し、まわりは仮病ではないかと疑っているので、何か病気が隠れていないかをチェックし、同時に症状がでていることは決してウソではないということを本人にも家族にも納得してもらい、症状をやわらげるような治療も併用しながら、次のアプローチへと移っていくことになります。

 最初の窓口はかかりつけの小児科が望ましく、必要であれば専門医に紹介することもあります。

○ 保育園に通いはじめた子も多いと思いますが? 〜「保育園かぜ」

 この春に入園された方も多いと思いますが、通園し始めて2−3か月は風邪などで休むのを繰り返すことが多く、正式な用語ではありませんが私はこれを「保育園かぜ」と呼んでいます。やはり小さい子ほど目立つようで、特に0歳1歳の場合はある程度免疫がついてくるまで仕方がないものと考えましょう。

 お母さんも働きはじめで休みたくないという事情もわかりますが、あくまで仕事のペースではなく子どものペースに合わせてあげるようにして、あらかじめその分のお休みを見越しておくようにしましょう。そのためには、お父さんやお祖父ちゃんお祖母さんの協力も必要になってきます。

 また、前の日まで熱があった場合は、朝下がっていてもすぐに保育園に出さないで、最低でも丸1日(24時間)以上熱がないことを確認してからにするようにしましょう。

 予防接種は、定期接種を出来るだけ早く、特に麻疹は1歳過ぎたら忘れないように済ませておいて下さい。水ぼうそうとおたふくかぜも保育園などで流行が繰り返されていますので、早めに接種するようにしましょう。


発行 2000年6月4日 通巻第50号
編集・発行責任者 久芳 康朗
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