■ くば小児科クリニック 院内報 1999年12月号


● 今年のインフルエンザ続報

 11月の末に宮城県や愛知県でインフルエンザが検出されたという情報が入ってきました.当地では年明けからの流行と予想しています.

 報道で伝えられている通り,今年は全国的にインフルエンザの予防接種を受ける人が急増しており,当院でも昨年の倍以上の数を確保したにもかかわらず予約でいっぱいになってしまいました.現時点(12/5)で他の施設で余った分が入荷したので若干名接種できる状況にあります.


● 治療は漢方薬を主体に

 10月号にも少し書いたインフルエンザの治療方針ですが,A型にもB型にも効く新薬のザナミビル(商品名リレンザ)は承認が遅れており,また吸入方法が小さな子には難しいので今年の使用は見送ることになりそうです.A型にだけ効くアマンタジン(シンメトレル)は,A型かどうかの検査をして確かめられた方のうち希望の方には使えると思いますが,全員に検査をするわけにはいかないの難しいところです.

 そこで,今年度は当院では漢方薬を主体にしてインフルエンザの治療を組み立てたいと考えています.気管支炎など合併症があるときには抗生物質も処方しますが,初期の段階ではウイルス疾患ですので抗生物質をなるべく使わないようにします.漢方薬というと慢性の病気に対して長い期間飲む薬といったイメージがあるかもしれませんが,その種類によってはむしろ急性疾患に効果が高いのです.

 例えば,インフルエンザに使う代表的な薬である麻黄湯の場合,熱が下がるまでの日数は平均1.6〜1.8日で,アマンタジンの1.66日とほぼ同等の効果があるということです(西洋薬では3.2日).

 また,漢方薬を使用する場合は,体力や食欲(水分摂取)が低下してぐったりしていたり,高熱による不穏状態(うわごとなど)の場合をのぞけば,解熱剤はなるべく使わないでみてみましょう.  インフルエンザや風邪,嘔吐下痢症で使われる漢方薬のうち主なものを簡単に紹介しておきます.

○ 麻黄湯:インフルエンザの初期に使われる代表的な薬.頭痛,発熱,体の疼痛,無汗が使用目標です.麻黄湯を飲むと一時的に熱はむしろ上がることがありますが,結果的には熱は早く下がります.

○ 葛根湯:風邪薬の代表的なものとして知られていますが,頭痛,悪寒,発熱,無汗の状態で,咳がまだ出ない初期の段階に適応があります.眠くならないので受験生には最適で,肩こりにも効くようです.

○ 小柴胡湯:抗炎症作用や免疫調整作用があり,亜急性期に使われる代表的な薬です.その他の病態にも幅広く使われる薬で,柴胡桂枝湯や小建中湯と共に,風邪をひきやすい子の予防薬としても使われます.

○ 柴胡桂枝湯:小柴胡湯と桂枝湯の合方で,風邪をひいて数日目でまだ熱も残り,胃腸症状を伴っているようなときに使われます.

○ 小青竜湯:鼻水,くしゃみ,鼻閉に対して効果があり,アレルギー性鼻炎の治療薬としても使われます.

○ 麻杏甘石湯:数日たって少量の痰が切れずに咳込んだりするときに使います.喘息発作にも使えます.

○ 五苓散:胃腸炎(嘔吐下痢症)の初期の嘔吐に対して使います.飲ませて吐いてしまった場合でも繰り返して使うことができ,西洋薬(ナウゼリンなど)とほぼ同等の効果があることが確かめられています.


● 1999年12月31日 ...

 今年も残すところわずかとなり,この1900年代が過去のものになろうとしていますが,"It's a party" では終わらず,全てを引きずって2000年に突入することになりそうです.2000年問題は何年も前から指摘されていたにもかかわらず,対策が本格化したのは今年に入ってからでした.当院では医療機器が少ない上,いずれも問題はなく,外来も休診ですので皆さんにご迷惑をかけるような事態は想定していません.

 一方,医療・介護・年金と続く一連の改革では,その第一歩である介護保険がスタート前から大混乱,年金も国会で大荒れです.医療改革は先行きが不透明で,来春の改訂では老人医療費定率化が目玉のようですが,必然的に老人の自己負担は増加する見込みです.

 そしてまた痛ましい事件が起こってしまいました.事件の異常さもさることながら,マスコミの「お受験=異常=殺人」という被害者や加害者への配慮の足りない無神経な報道には怒りを禁じ得ません.


院内版感染症情報 〜1999年第48週(11/28-12/4)


        1999年 第33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48
水痘              2  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  1  1  2  2  6
感染性胃腸炎      9  5  9 12 10  4  3  2  4  5 10 11 12 12  3  5
突発性発疹        1  3  1  4  0  2  5  0  1  1  0  1  2  4  1  4  
溶連菌感染症      0  0  1  2  0  2  3  0  1  0  2  1  3  2  3  1
流行性耳下腺炎    0  0  0  0  0  0  1  2  0  1  0  3  0  0  1  1
ヘルパンギーナ    3  5  4  3 10  3  2  0  0  0  0  3  0  0  2  0
ウイルス性発疹症  1  0  0  0  0  0  1  0  0  0  0  1  0  0  1  0
異型肺炎          0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  0
伝染性紅斑        0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  0  0  1  0  0  0
手足口病          1  0  0  0  0  1  1  0  0  0  0  0  0  0  0  0
 11月に入ってウイルス性胃腸炎が増加しましたが,下旬にかけて減少しています.この時期のものはSRSウイルスが主体でさほど重症化しないことが多いのですが,年が明けてから流行するロタウイルスの場合は,症状が強く重症化する場合があるので注意が必要でしょう.

 かわって11月後半から目立つのは咳がひどくなり痰がからむタイプの風邪で,一部にはマイコプラズマが含まれているようです.咳は良くなるまでに1週間程度かかるようです.インフルエンザはまだ.

 毎年のことですが,年末にかけて水痘と溶連菌感染症が増加傾向です.おたふくかぜも保育園で小さな流行がみられているようです.

 麻疹は7月以降一人もなく流行は終息しましたが,またいつ発生するかわかりません.予防接種は早めに済ませておくようにしましょう.


○ 年末は30日午前まで,年明けは4日から診療します.

○ 育児相談・子どもの心相談(無料):水曜午後,土曜夕方


発行 1999年12月6日 通巻第45号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
TEL 0178-32-1198 FAX 0178-32-1197
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