■ くば小児科クリニック 院内報 1998年6月号


● 乳幼児突然死症候群(SIDS)を予防する

 先月号で家族の喫煙が赤ちゃんの突然死にも影響していることを書きましたが,先日厚生省から,「両親の喫煙や人工乳,うつぶせ寝による育児が SIDS で死亡する危険を高め,この三要因が重なると危険は約21倍にも達する」という調査がまとまり,これらの危険因子を減らすキャンペーンを開始するということが発表されました.
 詳しいデータは省略しますが,人工乳は母乳に対し4.8倍,両親が喫煙する場合は4.7倍,うつぶせ寝はあおむけ寝より3.0倍,それぞれ SIDS になる危険が高くなり,喫煙では家族のだれかが吸うだけでも危険度は1.6倍になるということです.
 また SIDS は,男児に多く,体重2500g未満,妊娠36週未満で生まれ,母親が若い場合や,2月から5月の寒い時期に起きやすい傾向も確認されました.
 SIDS に関する調査やキャンペーンは欧米では1990年前後から盛んになされ,上記のようなこともある程度確認されていました.日本でも SIDS 研究会や SIDS 家族の会(http://www.hi-ho.or.jp/hotta/sids.html)などによる啓蒙活動が行われてきており,SIDS を少なくするための重要項目として下記のことがあげられています.

○ SIDS がどんな病気か正しく理解しよう
○ 仰向け寝で育てよう
○ 赤ちゃんを暖めすぎないようにしよう
○ 赤ちゃんの周囲で煙草を吸わない,妊娠中に煙草を吸わないようにしよう
○ 母乳で育てよう
○ 赤ちゃんを出来るだけ一人にさせないようにしよう

 ここで注意しなくてはいけないのは,これらはあくまで危険因子であり,うつぶせ寝や人工乳が直接の原因で突然死がおこったということではありません.報道を耳にしただけではそのように勘違いなさる方もいるかと思い,少しだけ強調しておきます.SIDS の原因としては脳幹部の呼吸中枢の機能に異常があるという説が有力ですが,真の原因は未だに不明であり,これらの危険因子を持たずに亡くなった赤ちゃんもいます.しかし,上記のような因子が SIDS と関係があることがわかり,諸外国ではキャンペーンによって SIDS の発生率の大幅な減少が認められているのです.
 日本における SIDS の頻度は出生1000人あたり0.4〜0.5と欧米に比べれば少ないものの,毎年全国で推定600人の元気な赤ちゃんが突然亡くなっており,先天的な病気や新生児期の死亡をのぞく乳児期の死亡原因のトップにあげられます.私たちは SIDS を不必要におそれることなく,偏見のない正しい知識をもって予防できることは予防し,それを更に伝えていくことが必要と言えるでしょう.


● インフォメーション

院内版感染症情報 〜1998年第21週(5/24-5/30)


        1997年 第06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21週
感染性胃腸炎      7 12 13 10 11 15  6  2  9 14  5  8  6  4 15  9
溶連菌感染症      0  0  0  2  3  3  3  1  0  0  5  0  1  3  3  6
突発性発疹        3  3  2  1  1  1  0  1  4  4  1  1  1  3  3  1
ウイルス性発疹症  0  0  0  1  2  1  1  0  0  3  0  2  0  1  0  1 
水痘              8  6 12  3  2  1  4  0  2  0  1  0  1  0  0  1
流行性耳下腺炎    2  1  2  5  6  3  2  5  3  2  1  2  3  2  1  0
ヘルパンギーナ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  0  1  0  0
手足口病          0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  0  0  0  0  0
乳児嘔吐下痢症    3  1  1  3  6  2  3  1  3  0  0  0  0  0  0  0
インフルエンザ  131 53 20  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0

 5月は先月から続いている咳がひどくなる風邪に加えて,中盤から夏かぜと思われるウイルス性の胃腸炎やノドが赤くなって熱が出るタイプの風邪も流行しだしました.溶連菌感染症は,例年12月と3・6月にピークがあるのですが,小学校低学年を中心に5月末から増加傾向にあります.家族内の感染も多いので,疑わしい場合は検査してみるようにしています.6月はヘルパンギーナと手足口病の増加が予想され,食中毒も要注意です.

○ 溶連菌感染症:ワンポイントメモ(→詳しくはパンフレット参照)

 溶連菌とは「溶血性連鎖球菌」の略で,病原菌としては世の中にありふれた細菌の一つです.以前罹ったことがあっても繰り返して罹ることがあります.一般に抗生物質がよく効いてくれることが多いのですが,抗生物質の効きにくいいわゆる耐性菌が検出されることもまれにあります(その場合は症状で判断しながら薬を決めていくようにしています).通常は薬を飲み始めて3日後に症状もノドの所見もおさまっていれば,感染性はなくなっていると判断し通学を許可します.少し前に話題になった劇症型溶連菌(人喰いバクテリアなどと書き立てられた)はちょっと特殊なタイプで,心配する必要はありません.

○ 合成洗剤から石けんへ

 合成洗剤は「植物性で手に優しい」とうたっていても環境に有害であり皮膚をいためます.これは毎日食器洗いをしているお母さん方なら身をもって知っているかと思います.また,洗濯用の洗剤は蛍光剤が配合されており,よくすすいでも洗濯物に残留して皮膚への刺激になります.アトピー性皮膚炎の子をよくみると,手首などの外に出ている部位が主な場合は外からの刺激が悪化要因ですが,逆に下着を着ている部位の湿疹がひどく,おむつ部はきれいに抜けていることがあります.こういった場合は洗剤や柔軟剤(これはもとよりアトピーの子には厳禁)が悪影響していることが推察されます.  以前から石けんを少しずつお勧めしようかと考えていたのですが,我が家でもご多分にもれず合成洗剤を使っていたので人に勧めることができませんでした.これはいかんと一念発起し,まずは自ら試してみようと思い「シャボン玉石けん」のセットを通販で購入しました....でもまだ使っていません.この続きは次回にでも報告できるかと思います.興味のある方は,パンフレットを多めにもらいましたのでご自由にお持ち帰り下さい.

○ 待合室の新しい本  「ほらふき男爵」


発行 1998年6月3日 通巻第27号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
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