■ くば小児科クリニック 院内報 1998年5月号


● 家族みんなで禁煙に取り組みませんか

 お父さんやお祖父ちゃんなどご家族でタバコを吸われる方がいる家庭は多いと思います.診察室にタバコの臭いをプンプンさせて入ってくるお母さんもたまにいますね.タバコを吸われる方自身の健康を害しているのは別に構わないのですが,かわいいお子さんにも次のような悪影響を及ぼしていることが知られています.

▼こどもの喘息やアトピー

 親が喫煙者の場合,喘息の発症率は3倍になるという報告もあります.肺炎・気管支炎などの呼吸器疾患も喫煙家庭の方が多くなります.もちろん,喘息児にとってタバコの煙は呼吸機能を低下させ発作を引き起こす原因となります.

▼妊娠中の胎児への影響

 お母さんだけでなく同居者の喫煙も,胎児の死亡や発育障害,早産,乳児突然死などとの因果関係が知られています.

▼誤飲事故

 こどもの誤飲事故は圧倒的にタバコが多く,その傾向はずっと変わっていません.タバコによる火事で命を落としているこどももいます.

▼喫煙習慣

 家族の誰かに喫煙者がいる場合,こどもが大きくなってタバコを吸いはじめる率が高くなります.喫煙家庭で育ったこどもは,タバコを吸うことに対して抵抗感が少ないのです.喫煙経験者率は小学6年生から中学2年生までに男子は22%から36%に,女子では9%から22%になるという驚くべき調査結果があります(1989).このような低年齢からタバコを吸い始めるのを防ぐには,家庭での喫煙習慣をなくすことが最も大切なのです.

▼癌や成人病

 そうやって喫煙習慣がついたこどもは,タバコをやめることができずに永年に渡って吸い続け,呼吸器系の癌や虚血性心疾患のみならず各種疾患のリスクを高め,非喫煙者と比べて寿命を平均して5年くらい短くすると言われています.

 タバコは嗜好品であると言われることがありますが,嗜好というのは基本的に他の人に迷惑をかけないものです.「こどもがいるときには家の中では吸わない」だけではダメで,家族全員でタバコをやめることが大切だということがわかってもらえたでしょうか.誤飲事故をおこした家族にきくと,必ず「いつもはちゃんと吸い殻の始末をしていたのに」と答えます.禁煙にはやめるきっかけと継続する意志が必要だと言われていますが,ご自分の悪い習慣がお子さんに悪影響を及ぼしているということが,果たして禁煙の理由にはなりませんでしょうか.
 5月31日の「世界禁煙デー」に講演会が青森県教育会館で開催されます.最近は禁煙補助グッズや禁煙用のニコチンガム(医師の処方が必要)などもでています.当院では今まで特に禁煙外来などは行っておりませんでしたが,ご希望があれば紹介するなどいたしますのでご相談下さい.


● インフォメーション

○ 母乳とダイオキシン:厚生省の調査と最近の論文から

 平成9年度の厚生省の調査がまとまり既に報道されましたが,原文をあたってみたところ,大阪府で凍結保存されていた母乳の年次調査から,母乳中のダイオキシン類の濃度は1973年から1996年にかけてほぼ半分近くに減少しているということがわかりました.  また,最近でも新聞などに「ダイオキシンが不安で母乳をやめた」といった投書が掲載されることがありますが,母乳育児で有名な聖マリア病院の橋本先生は「助産婦雑誌」に,本当に問題にすべきダイオキシンの環境汚染を母乳か人工乳かという問題にはき違えていること,世界の動向をみても母乳育児を抑止する報告はみられないこと,あらゆる毒素による化学障害は妊娠初期の8週間が出生後の授乳期よりももっと重要であることなどをあげ,最後に「今,一番大切なことは,ダイオキシンに関する科学的な関心が,母乳の安全性に疑いを投げかけたり,母乳育児をする母親に罪悪間や恐怖心を与えたりするような方向に向けられるのではなく,そうした化学物質を私達の環境から取り除く方向へと向けられることなのである」と結んでいます.この論文の要約や,その他の母乳育児に関する情報は http://www.osk.threewebnet.or.jp/~bonikuji/(母乳育児への誘い:堺市岡村産婦人科) に詳しく掲載されています.

院内版感染症情報 〜1998年第17週(4/26-5/2)


        1998年 第01 02 03 04  05  06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17週
感染性胃腸炎     18 14 13 16  15   7 12 13 10 11 15  6  2  9 14  5  8
流行性耳下腺炎    1  0  3  4   2   2  1  2  5  6  3  2  5  3  2  1  2
ウイルス性発疹症  0  0  1  0   0   0  0  0  1  2  1  1  0  0  3  0  2
突発性発疹        3  3  2  3   1   3  3  2  1  1  1  0  1  4  4  1  1
ヘルパンギーナ    0  0  0  0   0   0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1
溶連菌感染症      0  0  2  0   2   0  0  0  2  3  3  3  1  0  0  5  0
水痘              4  5  4  4   5   8  6 12  3  2  1  4  0  2  0  1  0
手足口病          0  1  0  1   1   0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  1  0
乳児嘔吐下痢症    4  1  0  2   7   3  1  1  3  6  2  3  1  3  0  0  0
インフルエンザ    0  0  5 42 146 131 53 20  0  0  0  0  0  0  0  0  0

 4月はこれといった特徴がなく,一旦おさまったウイルス性胃腸炎の流行が一時ぶりかえしたり,おたふくかぜや溶連菌感染症が相変わらず少しずつ続いていたりしました.おたふくかぜは既に1年以上毎週患者が受診しており,MMRワクチンの中止から5年が経ち,流行がほぼ自然に任されていると言えるようです.咳がひどくなるタイプの風邪が後半にかけて更に増加傾向にあり,5月前半までは続くものと思われます.夏風邪の手足口病やヘルパンギーナは来月にかけて増加が予想されます.

○ 待合室の新しい本

 「家なき子」「天にかかる石橋」(この本は著者のサイン入りで鹿児島の川内こどもクリニックから頂きました)

こどもにナイフを使わせましょう,などと書くと怒られるかもしれませんが,私達が子供の頃も,ナイフやカッターで鉛筆を削ったりいろんなものを作ったりしたものです.もちろん小さな怪我をすることはあるかもしれませんが,手を使わせることは脳の発達にもつながり,もちろん実用にもなります.ナイフを悪者にするのは問題のすり替えですね.刃物業界も逆風にめげずに頑張ってほしいものだ.


発行 1998年5月5日 通巻第26号
編集・発行責任者 久芳 康朗
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