麻疹ゼロの青森県をめざして − 予防接種広域化への取り組みを 『青森県小児科医会報』 第5号(2003年)掲載

くば小児科クリニック 久芳康朗

 2002年春には青森県内でも麻疹が流行し、一時全国ワースト1になったことは記憶に新しいところですが、県では6月14日に麻疹流行防止対策保健所長会議を開催し、市町村長やマスコミに対して注意を喚起し早期の予防接種を呼びかける文書<資料1>が配布されたものの、その後具体的な進展があったとはきいていません。

 県内小児の間ではしか大流行(2002年4月23日 東奥日報)
 http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2002/0423/nto0423_17.html

 ここであらためて説明するまでもなく、麻疹対策は予防接種の一言に尽きるわけですが、そのためには予防接種の広域化を含めたあらゆる方策をとっていく必要があります。八戸市医師会では8月に八戸市と保健所の担当者との話し合いの機会をもち、<資料2>にあるようにポリオ集団接種を含めて健診や予防接種、保育園・幼稚園入園時などあらゆる機会を捉えて接種率の向上につとめ、マスコミや広報を通じて周知徹底させることで合意しました。また、県内でも上十三地域では鈴木先生が、むつ下北地区では佐々木先生が広域接種にむけて行政に積極的に働きかけており、各地域における取り組みが活発になってきています。

 県医師会報によると、県と県医師会の話し合いの際に麻疹の2回接種について要望を出しているようですが、下記の資料にあるようにこの問題は国レベルで検討中であり、県独自で対応できる可能性はほとんどないと思います。県レベルですぐに取り組んで実現可能なのは、県医師会・県小児科医会主導で全県下・依頼書なしの広域接種を実施に移すことではないでしょうか。ちょうど市町村合併が具体的な段階に入ってきて、その中で各地域における予防接種や健診の方式についても検討されるはずですから、二次医療圏における広域化は今後2年間で実現に向かうものと予想されます。しかし、小児時間外救急など小児医療の問題がクローズアップされている今こそ、予防接種の広域化を含めて様々な懸案を解決させていく良い機会ととらえて、一気に県レベルでの広域化を実現させる方が理に適っていると思います。

 具体的には次のような方策が考えられるのではないでしょうか。

 1) 新潟方式や大分方式を参考にして、全県統一の予防接種広域乗り入れ体制を早急に構築する。各地区ごとの取り組みに任せるよりも、全県一斉にトップダウンですすめることが望ましい。そのためには、青森県医師会および各郡市医師会、青森県小児科医会および地区の小児科医会、県・保健所および市町村などの担当者の間で意思統一を図る必要がある。同時に、県境付近の市町村では県を越えた広域予防接種も可能にする。(すでに乳幼児健診では実現しています)

 2) 沖縄に倣って「青森はしか“0”プロジェクト(仮称)」をつくり、小児科医だけでなく行政、保育、マスコミなど関係者の間で認識を共有し、あらゆる方法を用いた広報・接種勧奨に努める。

 3) 感染症情報について、メーリングリストなどを活用して患者の発生状況をできるだけ早く通知する。特に、小児科だけでなく耳鼻科や内科における局地的流行や、中高生や若年成人における患者発生情報をいち早く把握できるか、地域ごとのシステムづくりが望まれる。

 4) 麻疹患者の全数報告・全数把握をめざし、できれば患者発生時には感染経路の調査まで含めた流行防止対策が実施されるようにする。

 5) 麻疹予防接種率を厚生労働省で統一された方法で調査把握し、毎年のデータとその推移を関係者およびマスコミを通じて一般に広報する。

 また、予防接種の問題は麻疹を前面に出して進めていくべきだと思いますが、岡山県における風疹の流行情報<資料3>にみられるように、最近大きな流行のみられていない風疹も要注意であり、特に若年女性にどのようにして情報を伝えていくか、実効性のある対策が望まれます。

 麻疹対策に関する資料を以下にリストアップしてみましたので、参考にしていただければ幸いです。

■ 感染症情報センター

・麻しんの現状と今後の対策について
 http://idsc.nih.go.jp/others/topics/measles/measles_top.html

 ここに現状と対策の全てがまとめられています。

■ 厚生労働省

・ポリオ及び麻しんの予防接種に関する検討小委員会
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/kousei.html#kansen-polio

 2002年8月〜12月までに5回の委員会が開催されており、その資料・概要は厚労省のホームページに掲載されています。今年度中に答申が提出されるはずですが、12月に「中間まとめ」が出されておりますので、今後の対策の部分だけ抜粋しておきます。
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/s1213-5.html

1.麻しん
2)今後の方策(案)
 短期的に1歳児を中心とした低年齢層での流行を減らす方法は?
 <選択できる接種方法>
 (1) 1回法(現行の方策)
 (2) 2回法(先進国型)
 (3) キャッチアップ(発展途上国型)
  → 現在の日本に早急に必要な方法は1回法の徹底。
   ・ただし、1歳児(12-15ヶ月)の接種率の向上を目指す。
   ・将来的には、海外諸国と同様に2回接種にすることも検討する。
3)今後しなければならない研究・調査課題
 (1) 乳幼児の麻しん患者の罹患状況、接種状況の詳細
 (2) 乳児への予防接種における効果・副反応について
 (3) 正確な予防接種率の把握
 (4) 短期戦略による成果(罹患者の減少状況)の評価

■ 日本医師会

・麻しん予防接種ポスターキャンペーン
 http://www.med.or.jp/kansen/mashin.html

図1 女優の遠山景織子を起用した日医のポスター
≪遠山景織子さんからのコメント≫
私は出産・育児を通して物の見方、感じ方が変わりました。子どもの成長と一緒に私自身も成長していくような・・本当に学ぶ事がたくさんあります。我が子が病気することなく元気に育ってほしい!!というのが一番の願いで、それはきっと全国のお父さん・お母さんと同じ思いではないかと思いました。この予防接種を受ける!!という事で少しでも死につながることのないように・・そんな想いでいっぱいです。
本ポスターをご希望の方は、日本医師会感染症危機管理対策室宛に、送付先の住所等をお書きの上、お申し込み下さい。
FAX:03-3946-2684
メール:kansen@po.med.or.jp

 このポスターは2月の乳幼児保健講習会のときにも多数入手できたので、まだ残っているものと思われます。

■ 日本小児科医会

・岡部信彦:麻疹の征圧は可能か−今、現実に可能なこと、早急に取り組むべきこと−.日本小児科医会報 24:37-43,2002.(第13回日本小児科医会セミナー教育講演)

■ 日本外来小児科学会

・松浦伸郎ほか:広域的予防接種(その3)−いわゆる相互乗り入れを考える−.外来小児科 5:305-306,2002.

 予防接種の広域化に継続的に取り組んでいる日本外来小児科学会ワークショップの中間報告によると、従来から広域接種を行っていた岩手県、新潟県、三重県に加えて、2002年より高知県、大分県、兵庫県で広域接種が開始され、岡山県、香川県、群馬県、埼玉県でも検討中だとのことです。広域化に際し問題となるのは、(1) 依頼書の有無、(2) 契約の仕方、(3) 委託料金−窓口料金、(4) 請求・支払いの手続き、(5) 広域化する予防接種の種類などであり、これらについて先進地域の取り組みは大いに参考になるはずです。

■ 大分県

・東保裕の介:大分県で「全県的な予防接種の相互乗り入れ」がスタート.日本小児科医会報 24:147-150,2002.

 (1) 個別接種料金は統一しない、(2) 依頼書は必要としない、(3) 集団接種を残す場合も個別接種料金を設定する、(4) 事務手続きは郡市医師会が行う、(5) ワクチンは統一するなどを特徴とする大分県方式が1年足らずの期間で実現した経緯が報告されており、大変参考になります。ポイントは、県医師会から県へ、県から市町村へという流れをつくりだせたことのようです。

■ 沖縄県

・はしか“0”プロジェクト行動計画
 http://www.c-okinawa.co.jp/kansensho/hasika0.htm

■ 新潟県

・新潟県小児科医会
 http://www.ne.jp/asahi/niigataken/shounikaikai/


<資料1>

市町村長殿

平成14年4月26日
青森県健康福祉部長

青森県の麻しん予防接種率の向上について

(前文省略)

  1. 麻しんの予防接種を年度内の早い時期に実施し、また、予防接種を受ける機会を増やす。
  2. 麻しんの予防接種の標準的な接種期間は、生後12月から生後24月となっているが、標準的な接種期間においてもできるだけ早期に接種するよう広報誌等を通じて呼びかける。
  3. ポリオ生ワクチンやDPT3種混合ワクチン接種の機会に、満1歳に達したら、できる限り早く麻しんワクチン接種を受けるように繰り返し訴える。
  4. 1歳半健診時に麻しんワクチン未接種者を探し出して、早期の麻しん予防接種を勧める。
  5. 1歳までにBCG、DPT3回、ポリオ生ワクチン2回の接種が完了できるように配慮し、麻しんワクチンの接種時期と他のワクチンの接種時期が重ならないようにする。

担当:健康医療課感染症予防班


<資料2>

平成14年10月1日

予防接種委託医
集団接種担当医各位

八戸市医師会予防接種担当理事 富田純正
八戸市小児科医会会長 縄田與幸

ポリオの集団接種受診者に対する麻疹予防接種の勧奨について

 平素は予防接種事業にご協力いただき大変ありがとうございます。
 本年4月から6月にかけて青森県内で麻疹が流行して多数の子どもが罹患し、全国でワースト1になったことはご承知の通りです。これに対し、八戸市医師会では8月26日に八戸市および八戸保健所の担当者と共に対策会議を開催し、麻疹の制圧に必要な予防接種率95%を達成し維持するために、各医療機関における勧奨活動に加えて、(1) 乳幼児健診や集団予防接種の機会、保育園・幼稚園入園時、マスコミの利用などあらゆる機会をとらえて麻疹について啓蒙し予防接種を勧奨していくこと、(2) 自治体の枠組みを越えて広域で予防接種を受けることができるよう各方面に働きかけていくことなどが話し合われました。
 また、流行が続いていた本年6月のポリオ集団接種において、1歳以上の麻疹未接種児に対する対応が接種医によって異なり一部で混乱がみられたことから、9月24日の八戸市小児科医会において下記のことを申し合わせて八戸市にも連絡いたしましたので、接種医の皆様には趣旨をご理解いただいた上でご協力の程よろしくお願いいたします。

(1) 麻疹の非流行時には

 ポリオの集団接種において、受付で予防接種歴をチェックして、1歳を過ぎて麻疹を接種していない子には4週後以降できるだけ早く麻疹の予防接種を受けるように強く勧め、接種医も更に一言口添えをするようにする。

(2) 麻疹の流行時には

 受付でチェックされた上記の該当者には、接種医が説明して保護者の納得と同意を得た上で、集団接種は見合わせて麻疹の予防接種を先に受けてもらうようにする。もし同意が得られない場合には、当日の接種を行った上で4週後以降できるだけ早く麻疹の予防接種を受けるように強く勧める。
 予防接種委託医療機関におかれましては、集団接種を見合わせて受診した子には、できるだけその日のうちに麻疹の接種をしていただけますようお願いいたします。

 なお、流行時かどうかの判断は、随時状況をみて市当局とも連絡しながら行っていく所存です。今月のポリオについては「麻疹非流行時」の対応でお願いいたします。


<資料3>

各都道府県小児科医会会長殿

お知らせ

岡山市とその周辺における風疹の流行について

 平成14年秋から岡山市とその周辺において、風疹の流行がみられ、平成15年1月と2月の岡山県54定点からの発生報告は80名で、全国約3,000の定点からの報告数244名の約1/3を占めています。これは氷山の一角であり、この数の何倍もの患者が発生しているものと推測されます。
 平成14年12月に岡山市で先天性風疹症候群の小児が1名出生し、小児だけでなく成人の間にも小流行がみられています。そこで本年2月27日に岡山県感染症対策委員会、結核感染症発生動向調査専門部会、予防接種専門部会の合同会議が急遽開催され、この会議で風疹緊急対策が協議されました。その結果、妊娠可能年齢の女性、1〜7.5歳の乳幼児で風疹の罹患歴のないもの、風疹またはMMRワクチンの未接種者に対して、早急に風疹ワクチンの接種を受けるよう具体的対策を立てることになりました。
 以上、ご参考までにお知らせ致します。

平成15年3月5日

岡山県小児科医会会長
日本小児科医会副会長
梶谷 喬


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