■ くば小児科クリニック 院内報 2005年4・5月合併号


院内版感染症情報 〜2005年第20週(5/16〜5/22)


        2005年 第04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
インフルエンザ    0  6 20 27 54 80 73 55 12 27  3  5  4  2  0  0  0
A群溶連菌咽頭炎  0  2  3  4  0  3  2  0  1  0  2  2  1  1  0  0  0
感染性胃腸炎      9 16 10 10 13  4  8  8  1  1  4  4  2  5  3 16  9
水痘              1  1  0  1  2  2  1  0  1  0  1  1  1  0  3  0  1
手足口病          5  1  2  2  1  0  1  0  0  0  2  1  0  1  0  0  0
伝染性紅斑        0  0  0  0  1  0  2  0  0  2  0  0  0  1  1  0  0
突発性発疹        1  1  0  0  2  1  0  0  1  0  2  0  0  1  0  0  0
風疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
ヘルパンギーナ    0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
麻疹              0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0  0
流行性耳下腺炎    1  1  0  0  2  1  0  2  1  0  1  0  0  0  1  0  0
 今月も大幅に発行が遅くなってしまい合併号になってしまいましたが、前号以来の1か月半の感染症流行状況をおつたえします。

 3月に比較的大きな流行になったインフルエンザは、4月に入って下火になってからも小さな流行が保育園などで残っていましたが、GWでほぼ終息したようです。4月中に同じように下火になっていたウイルス性胃腸炎が5月に入ってから再び増加傾向にあるのが気になる程度で、その他には水ぼうそうや溶連菌感染症が少しずつみられる程度で目立った感染症はなく、咳が多く出るタイプの風邪が主体となっています。

 5月から6月にかけては、例年ならヘルパンギーナや手足口病、夏かぜタイプのウイルス性胃腸炎、アデノウイルス感染症(咽頭結膜熱=プール熱)などがみられてくる時期です。

 今年も春に流行しやすい麻疹(はしか)は発生していませんが、1歳になったらすぐ麻疹の予防接種を忘れないように済ませておきましょう。


● 国内でもエイズが大ブレイクの危機に

 1月末に、昨年新たに報告されたエイズ患者・エイズウイルス(HIV)感染者が初めて1000人の大台を超えたというニュースが報じられました。先進国の中で多い方ではありませんが、唯一90年代後半から直線的に増え続けており、しかもエイズはクラミジアと同じように感染してもすぐには症状が出ないので、実際にはその何倍もの感染者がいると考えられるのです。世界的には、2000年現在 HIV に感染している人は4200万人、2002年に新たに感染した人は500万人(毎日1万3000人以上)、エイズで死亡した人は310万人(毎日8000人)と推計されており、そのうち240万人がサハラ以南のアフリカに集中しています。(ちなみに、タバコ病による死者は毎年500万人と推計されています。)

 そして、流行の中心がアフリカから中国などのアジア地域へと移りつつあり、日本もエイズ蔓延の危機にあることが警告されています。

 厚生労働省では、信じがたいことにエイズを「性感染症」として位置づけてこなかったのですが、現状への危機感からエイズ予防指針の見直しを進め、エイズを誰もが感染リスクにさらされる「慢性感染症」と位置づけて、予防対策などの役割は都道府県自治体が担うとする報告をまとめました。

 エイズは、同性愛者や「遊んでいる人」だけの特殊な病気ではなく、普通の人が普通に感染する時代になってきていることが、ここにきてやっとマスコミなどでも強調されるようになってきたところです。

 ただし、感染して潜伏期にあるのに「自分はエイズとは無縁」と思って更にウイルスをまき散らしている人を、検査で早期発見するのは至難の業であり、中高生あるいは小学生に対する性教育・予防教育が最も重要であることは間違いありません。しかし、ここで問題になってくるのは、国会でわかったような質問をして非難する保守派の揺り戻しにより、性教育が大きく後退する危機的状況にあるということです。やるべきことが全く逆です。

 私も昨年度から市内の中学校で思春期の心とからだ(特に性とタバコ)について話をする機会ができたので、エイズを含めた性感染症のことにはある程度力を入れて印象に残るように話をしているつもりですが、「脅しの性教育」にならないように、しかし知っておくべき情報は全て伝えるということを短い時間で行うことは難しいものです。性感染症や十代の妊娠・中絶、あるいは喫煙といった問題は、全て「無知からくる悲劇」と言えます。まず正しい知識を持つことが大前提で、その上で行動変容を来すようにするという難しい課題であり、私にとっての新しいチャレンジでもあります。


● 救える子どもの命、年間500人 〜 日本は1〜4歳の死亡率が先進国中最悪

 4月に東京で開催され私も1日だけ出席してきた日本小児科学会で発表されたデータです。子どもの事故は予防することが第一なのですが、ここでは発生してしまった重大な事故に対して、専用の小児集中治療室(PICU)を欧米並みに整備して死亡率が他の先進国並みに下がれば、年に500人の命を救うことができるという推計です。

 日本の赤ちゃん(1歳未満の乳児)は世界中で一番死ななくなっています(最近のデータでは2位)。皆さんのお子さんは、そのようなかつてない時代にこの国に生まれたわけですが、1歳以上の死亡率は先進国の中でも高く、死因のトップは不慮の事故です。せっかく元気に育った子どもが、本来なら防げたはずの事故で命を落としているのです。

 「日本は1〜4歳の死亡率が先進国中最悪」といっても小児科医なら誰も驚かないのですが、新生児・乳児死亡率世界一という輝かしい記録の前に、一般の方や親御さんにはあまり知られていなかったのも事実です。PICU の整備は一朝一夕にはできませんが、事故発生の予防は小児保健に関わるものにとって最も重要なテーマです。


● BCGの接種年齢が「生後6か月まで」になっています

 以前からお知らせしたとおり、4月からBCGの接種年齢が生後3か月から6か月前まで(6か月のお誕生日と同じ日の前日まで)になり、集団接種ではなく医療機関における個別接種に変更になっています。接種期間が短いので三種混合をはじめる前に、3か月になったらBCGからスタートするようにしましょう。階上町や南郷区の方も八戸市と同じです。その他に、

○ 日本脳炎の第2期が「9歳」から「小学4年」に、第3期が「14歳」から「中学3年」に変更になっています。


● 祝! タバコ規制枠組条約(FCTC)発効:マスコミが伝えようとしない「条約の本当の目的」

 2月末の条約発効を記念して特集を書くと予告していたものが遅くなってしまいましたが、5月31日の世界禁煙デー記念もあわせて、みなさんに是非知っておいてもらいたい「本当のこと」をお伝えします。(長文注意)

 デーリー東北や東奥日報に『ニュースなぜなに』という子ども向けのコーナーがあり、先日『たばこ規制枠組み条約 吸わない人の健康も守る 喫煙場所や広告など制限』という記事が掲載されました。

 私たちは、県内の医療、教育、保健、行政関係者が協力して禁煙活動を行うためのネットワーク「青森県タバコ問題懇談会」の活動の中で、マスコミ関係者にも参加してもらって、メディアに誤った内容や誤解・無理解を助長するような記事が載らないよう、そしてタバコ問題の真実を広く伝えてもらえるよう努力しているところです。しかし、モグラ叩きのように「問題のある記事」は出てくる。この記事も、全体として間違いは書いていないにせよ、肝腎のポイントをわざと避けて書いているとしか思えません。

 ここでは一部を引用しながらそのポイントをお伝えします。

 まずは見出しの『吸わない人の健康も守る』という表現は、「健康も」の「も」という一文字が入っているため明らかな間違いではありませんが、FCTC の本当の目的は受動喫煙の防止ではありません。各国の政府がその国におけるタバコ産業の広告・販売促進活動を厳しく規制することにより、未成年者が新たに吸い始めることを防止するだけでなく、現在喫煙している人にも積極的に禁煙させて、結果としてタバコの消費を大きく抑制して喫煙率を大幅に低下させ、タバコ産業の「命を金にかえる商売」から各国の国民の健康を守ることにあります。

 受動喫煙の防止だけなら、すでに2003年に健康増進法が制定されています。健康増進法も、飲食店で禁煙・分煙が進んでいない現状を踏まえて「罰則規定」のある法律に改正しなくてはいけないのですが、ここでは触れないでおきます。受動喫煙の防止は、すでに実現していなくてはいけない当然の義務であり、これを見出しにもってくるのは一種のまやかしと言えます。

> たばこが原因で死ぬ人は、一年間に世界で約五百万人、日本では約十一万
> 四千人といわれます。そこで、たばこの害から健康を守ることを目的とし
> た「たばこ規制枠組み条約」が、二月末から効力を持ち始めました。日本
> など条約を結んだ国は、たばこの害に取り組む約束を守らなければなりま
> せん。

 どうか考えてみてください。

 コンビニや並んでいる商品の中で、その商品を「定められた正しい使い方で」使うことによって購入した人の2人に1人が亡くなっていて、毎年世界中で500万人もの犠牲者を出している上に、購入するのに許可もいらず、アジアの東の果ての島国では60万台もの違法野放し状態の自動販売機で未成年が自由に買うことができる、そんな商品が他にあるでしょうか。

 しかもこの死者数は毎年増え続けていて、2030年には毎年1000万人が亡くなると推計されているのです。

 日本は先進国ではトップクラスの喫煙大国で、成人男性の約半分、男女合わせて約3000万人もの喫煙者がいるのです。その中で青森県は更に喫煙率が高く、平均寿命はダントツで最下位です。県が行った調査によると、20代女性の喫煙率は全国の16%に対して、青森県では55%という信じがたい数字になっています。(この種の調査は方法などで変動要因が大きいのですが、それを差し引いても高すぎます。)

 これらの原因は「人々がタバコを好き勝手に入手しているから」ではありません(タバコ会社は裁判でそのように主張していますが)。タバコ産業が先進国から途上国へ、貧しい国や飢えた人々へ、成人男性から未成年や女性へと販路を拡大し続けているからです。もちろん日本も例外ではなく、自動販売機を撤去できない最大の理由は未成年への販売が全体の6分の1という大きなマーケットになっているからです。

 大人は「タバコのある社会」「タバコを自由に吸うことができた社会」に慣れっこになっていて疑問に思わない人が多いようですが、この話を中学生にすると必ず「それならどうしてタバコなんて売っているのか?」と質問されます。それが正しい疑問で、その疑問をもつことが「普通」なんです。

 この記事の表現では、タバコがこれからもこの世の中に普通に存在して売られ続けることを前提にして、『たばこの害から健康を守る』ことが条約の目的のように書かれていますが、決してそうではありません。タバコがこんなに入手しやすく大量に作られ売られている現状に対して、この条約は世界中の国が結束してタバコ産業の活動を抑えようとすることが真の目的です。

 言葉を返せば、国際条約を作らなくてはいけないくらいタバコ産業の力が強かったということであり、メディアが及び腰の記事しか書けないのも、広告費というタバコマネーの力が強大なものだからです。子ども向け記事だからではなく、子ども向けだからこそ「狙われているのは子どもだ」という真実を書かないといけないのです。

 しかし、FCTC に批准したことで大きな転換点を過ぎ、その力関係も逆転へと向かいつつあります。

 もう一つ、日本と諸外国との決定的な違いがあります。

 諸外国では、国や州の政府がタバコ規制のための法律を制定したり、医療費の増大や情報隠しなどでタバコ会社を訴えたりしているのですが、日本では政府が日本たばこ(JT)の筆頭株主で半数以上の株を所有している事実上の国営会社であり、「たばこ事業法」という法律でタバコ産業を育成・奨励するように定めているのです。

 そして、タバコ病訴訟では、国はJTを訴えるのではなく、逆に一緒に訴えられている上に、JTが「受動喫煙の害は確立していない」とか「喫煙者が肺がんになったのは個別の因果関係は問えず自己責任だ」などと主張してることを事実上認めているのです。(もちろんこのような主張は世界中のどこに行っても笑いものになるだけです)

 さらに、日米独の3国政府は FCTC 制定のための会議で、国民の健康を守るために厳しい規制を制定するよう働きかけるのではなく、国民の健康を犠牲にしてタバコ産業の利益を守るために規制を緩やかなものにするよう圧力をかけ続け、世界各国から“悪の枢軸”と非難されたという事実を、国民のほとんどは知りません。

 この構図は、水俣病や薬害エイズと全く同じで、諸外国が30年も前にきちんと規制を始めているのを知りながら放置し、健康被害を拡大し死者の山を築き続けてきた(現在も続けている)という悪質なものです。

 私も昔は、ただ「タバコは健康に悪いもので肺がんになりやすい」とか「未成年が吸わないようにさせたい」といったお題目程度のことしか理解していませんでした。しかし、ここに書いたような「日本の常識は世界の非常識」という現状を理解するにつれ、これは企業と国家による犯罪行為であり、医師としてこの状態に対して何も行動を起こさないのは共犯と言っても過言ではないと確信するようになったのです。(ちなみに『バカの壁』の養老氏の考えは全くその逆で「禁煙運動はナンセンスで必要ない」と発言し続けています。バカの壁を書いた本人がバカの壁を築いているとしか考えられないのですが、、もちろんご本人は喫煙者です。)

 皆さんの大切なご家族やお子さんが、タバコにとらわれた一生を過ごして毎日お金をタバコ会社に貢ぎ続け、そのあげくに平均して10年も老化を早めて寿命を縮める(※)などという馬鹿げた罠に陥らないように、そして、受動喫煙や妊娠中の喫煙によって、乳幼児の突然死や流早産をはじめとして、喘息や気管支炎、中耳炎、知能低下や低身長、問題行動や少年犯罪などの深刻な被害を受け続けている子どもが一人でも減るように、今後も地道に活動していきたいと考えています。

具体的にすぐにでも実現しなくてはいけないのは、
1.屋外タバコ自動販売機の撤去(IC識別カード自販機はまやかしの対策)
2.タバコ税大幅増税を行い、諸外国並みの800円〜1000円にする
3.健康増進法の改正(罰則規定追加)と、たばこ事業法の撤廃
4.タバコ税収の一部を用いてタバコ農家の転作支援を強力に推し進める
5.全ての小中学校における防煙(喫煙予防)教育

などで、その他にも個人のレベルから国や世界のレベルまで、やらなくてはいけないことは山積していますが、一人ではとてもできることではないので、懇談会というネットワークをつくって活動しているのです。

 5月31日の WHO 世界禁煙デーを記念して、6月18日に青森市のアスパムで『脱タバコ元年 無煙社会を目指して』と題して講演会と県内の取り組みの報告会を開催します。当日は午後休診となりますのでご了承下さい。

※ 20歳で吸い始めて元々80歳の寿命だった人が10年縮まるとすると、残りの人生(60年)が6分の5になるわけで、表現を変えると、1日が20時間に、1年が10か月になったのと同じことです。毎日4時間もの時間をタバコに捧げても惜しくはありませんか?


○ 5〜6月の診療日、急病診療所、各種教室、相談外来の予定

 4〜5月は全て暦どおりの診療で臨時休診はありません。6月18日(土) は上記の青森県タバコ問題懇談会のため午後休診にいたしますのでご注意下さい。急病診療所当番は5月4日(水) 昼と29日(日) 昼の2回、6月は7日(火) 夜、19日(土) 夜、21日(火) 夜の3回です。

 赤ちゃん教室は5月21日(土) でその次は7月16日(土)、ぜんそく教室は6月〜9月に3回開催する予定です。「育児相談・子どもの心相談」「禁煙・卒煙外来」は、診療時間以外に水曜・土曜午後、平日夕方などにも相談可能です(初回のみ無料−禁煙外来で薬を処方する場合は実費)。

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発行 2005年5月21日 通巻第109・110号
編集・発行責任者 久芳 康朗
〒031-0823 八戸市湊高台1丁目12-26
TEL 0178-32-1198 FAX 0178-32-1197
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☆ 当院は「敷地内禁煙」です


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