「子どもの嘔吐と下痢」  BeFM「ホームドクターに聞こう」2001.11.12放送(2001.11.06収録)

くば小児科クリニック 久芳康朗

※一般向けの放送ですので、「下痢と嘔吐」「ウイルス性胃腸炎(嘔吐下痢症)のケア」と内容の大部分が重複していることをおことわりしておきます。

Q.今日のテーマ、嘔吐と下痢について。子どもはすぐに吐いたり下痢したりしやすいが。

A.
嘔吐や下痢は、それぞれが別々にみられる場合もあるが、セットで一緒に考えた方がいい場合が多い。
今日は下痢したり吐いたりする病気を一つ一つ詳しく説明しない。
いろんな病気の原因を追及したり診断をつけたりするのではなく、それ以前の家庭でのケア(看病)を説明する。
ウイルス性の胃腸炎による嘔吐下痢症を念頭に置いてお話しするが、その他の病気でも対処の原則は同じ。

Q.まず嘔吐について。吐くというのは、どういった状態か。

A.
吐くのは、食べたり飲んだりしたものが胃から小腸に流れていかないで逆流する状態。
大きく分けて、物理的に詰まっている状態(腸閉塞)と機能的に蠕動(ぜんどう)運動が止まっている状態の2つ。
腸閉塞はまれ。
風邪や胃腸炎で吐くのは機能的なもので、時間がたてば自然に良くなることが多い。
その他に、頭を強く打ったり、変な匂いや気持ち悪いものをみたり、単なる食べ過ぎや飲み過ぎで吐くこともある。
子どもでは、咳が強いときに嘔吐反射がおきて吐くこともある。

Q.子どもが吐いたときにまず何に気をつけたらいいのか

A.
吐くのは、「今は何も飲んだり食べたりできませんよ」という体のサイン。
それをちゃんと読みとってあげて、逆らわないこと。
ウイルス性胃腸炎の場合は、薬の治療よりも、自然の経過に合わせてそのときの状態に沿った形で看病してあげることがポイント。★1
ですから、吐いたときには、まず何もしないでお腹を休めてあげることが必要。
あわてて何かしようとしないこと。
脱水になるのが心配で、すぐに水分をとらせようとする人が多いが、2−3回吐いた程度ですぐに脱水にはならない。

Q.ウイルス性胃腸炎とはどういうものか。その原因は

A.
いわゆる「お腹に来る風邪」で、毎年この時期から冬にかけて流行する。
「お腹をこわして」下痢したり吐いたりする場合の大半はウイルスや細菌などの感染症。
その90%以上はウイルスによるもの。時期によって流行するウイルスが違う。
秋から冬にかけては、小型球形ウイルス(SRSV)と呼ばれていたウイルスが主で、あまり重症化しないことが多い。大人も子どもも罹る。
真冬から春にかけて、ロタウイルスやアデノウイルスなど。
特にロタウイルスの場合、嘔吐や下痢の程度が強く、家庭での看病だけでは脱水症に進行してしまう場合があり注意が必要。主に小児。

Q.ウイルス性胃腸炎の自然の経過と、それに合わせた対処法とはどのようなものか

A.
病気の時期を、1) 吐き気が強い時期、2) 吐き気が少しおちついてきた時期、3) 下痢だけになった時期の3段階に分けて考える。
吐き気が強いのは最初の一晩が主で、ここを乗り切ると翌日からは少し楽になることが多い(1)。
多くの場合夕方からはじまり、朝方まで吐き気が続く。
熱は出たとしても一晩くらいで長続きしないことが多い。
次の日からは吐き気はおさまってきて(2)、それと入れ替わるようにして下痢がメインになっていく(3)のが一般的な経過。
下痢してくるのは、お腹が動き出したというサイン。悪くなったのではない。←ポイント★2
それに合わせて水分がとれるようになることが多い。

吐き気がつよい最初の一晩に飲ませて吐くのを繰り返すと、かえって体の水分や電解質が失われて悪循環になり、何も飲ませないでいるよりも脱水が進行してしまうことがある。
もし眠っているなら、そのまま朝まで何もとらせずに眠らせてあげる。

Q.のどが渇いて水分を欲しがる場合は

A.
その場合でも、最後に吐いたところから最低3時間以上あけてから、
小さい子はスプーン1さじ、大きい子はコップで一口だけにする。
再び30分〜1時間あけて、次は2さじ、あるいは二口というように増やしていく。
吐き気が少し残っている場合でも、ごく少量ずつなら吸収できることが多いが、一度に飲ませてしまうと全部吐いてしまい逆効果。少量ずつ、回数を多くして、がポイント。★3
「飲みたがるから飲ませた」では駄目で、親がコントロールしてあげる必要がある。

Q.吐き気が残っているこの時期に飲ませるものは

A.
母乳やミルクは、脂肪、糖分、タンパク質がたっぷり含まれているので、この時期に最初から飲ませたのには適さない。
子ども用のイオン飲料があればそれを飲ませてもいいが、なくても、
「白湯」や「湯冷まし」「番茶」などで構わない。

Q.もしまた吐いてしまったら

A.
もう一度ふりだしに戻って、2−3時間の絶食のところからやり直す。
そうこうしているうちに、次の日からは徐々にとれるようになってきます。

Q.嘔吐に対する薬や、そのほかの治療は

A.
吐き気止めの坐薬などがあるが、すぐに薬を使わないといけないわけではない。
薬ですっかり治るわけでもない。
この時期の吐き気には、漢方薬も同じように効果がありよく使っている。
脱水が進行しかけている場合には、点滴による水分が必要だが、実際にはさほど多くない。

便が出ていなかったり、かたい便が残っていると、腹痛や吐き気が長引く場合がある。
(便秘だけで、非常に強い腹痛や嘔吐の原因になることがある。)
浣腸して出してあげるのが吐き気止めの薬を使うよりも有効なことが多い。
便が出てきて、吐かずに下痢だけになってくれば、少し楽になってくる。

Q.一緒にお腹が痛くなる場合が多いが、腹痛の対処法は

A.
一般に、お腹の痛みを止める薬というのはない。無闇に薬(置き薬など)を飲ませようとしないこと。
腸のキリキリとした痛みは、腸の動きを止める薬を使うと和らぐかもしれないが、治そうとする反応を妨げることになる。
そういう薬をつかうと、悪い病気が隠れているのを発見することが遅れることがある。
胃腸炎の時の痛みは周期性があり、初期の強い腹痛は、吐いたり下痢したりするといったん和らぐ。
薬で治そうとしないで、お腹を暖めてあげるのが一番。手を当ててさすってあげる(手当)も効果的。
子どもの気持ちを落ち着けて安心させてあげることが大事。親があわてないこと。

Q.次に、下痢について、まず何に気をつけたらいいか

A.
嘔吐もそうだが、下痢して便を出すことは、基本的には体の防御反応、治そうとする反応だということ。
下痢してウイルスや細菌などの病原体を外に排出しながら、腸の粘膜の細胞は1週間で全部再生して新しくなる。
食事療法を中心にした家庭での看病を行いながら、自分の力で治ってくるのを待つのが基本。

「飲ませると下痢するので飲ませない」のは絶対駄目で、下痢して外に出た水分は必ず補ってあげる。
特に真冬に流行るロタウイルスの場合は、白い水のような便が続いて水分補給が追いつかなかったり、嘔吐が続いたりすると、あっという間に脱水になることがあり注意が必要。

Q.下痢の時の飲み物や食べ物は

A.
最初は水分補給、水分がとれるようになったら、ウンチの固さに合わせて調節していく。
お腹をこわしているときに牛乳は厳禁(幼児)。
湯冷まし、白湯、冷たくない子ども用イオン飲料、お茶、薄めたスープなどが適している。
吐き気がなくなったら、飲みたがるのにまかせて構わない。これもポイント。★4
病院で出された飲み薬(整腸剤など)は、水分がとれるようになってから飲ませる。
吐き気がなく水分がとれるようになったら、次は食べ物。
最初から栄養のことを考えない。すぐに栄養失調になったりしない。お腹を休めること自体が治療。

便の固さに合わせて、重湯、お粥(五分粥→全粥)、リンゴのすり下ろし、うどんなどから、軟らかいご飯、普通のご飯へと戻していく。
ごはんの繊維には整腸作用もあり、治療に最適。
「お粥が食べられないお子様」→味付けしたり、何かをかけて食べても構わない。
母乳の場合はそのまま、ミルクの場合は薄めたミルクから2-3日で普通のミルクに。
大豆乳や乳糖を含まないミルクなどが必要な場合は多くないので、かかりつけ医の指示に従う。
9〜10か月を過ぎた場合は、ミルクよりもお粥を中心にした方が治りが早い。
期間は、2−3日から1週間が目安。腸の粘膜が再生してくる時期にあわせて、栄養も必要になってくる。
経過が長引くのは、ジュースやお菓子などの甘いもの、油っぽいものなど、食事の内容に問題がある場合が多い。

Q.夜間や休日でも、すぐに受診しなくては行けないのはどんな場合

A.
子どもは、たいてい日中は元気で夕方から夜にかけて具合が悪くなる。
大抵の場合は、今まで話したような対処で一晩みて翌日受診しても大丈夫なのだが、
夜にかけて、段々具合が悪くなるときには点滴しながらの治療が必要になる場合もある。
遅くならないうちに判断して受診することも大切。

具体的には、脱水症といって、体の水分が足りなくなる状態。
子どもは大人に比べて体重あたりの必要な水分量が多く、脱水になりやすい。
外からみてわかる脱水の目安は、肌が乾燥して汗をかかない、顔色が青白い,、唇が乾いて口の中がべたべたする、おしっこが少ない、乳児で大泉門が陥没するなどだが、こういった症状が出ているときにはすでに脱水は進行してきているので急いで受診する必要がある。

八戸では、毎晩夜の7時から11時まで根城の休日夜間急病診療所に小児科医が出動している。
日曜祝日や年末年始は、昼の12時からやっている。
県内でも最も進んだシステムだが、夜の11時以降はやっていないので、どうしても必要な場合は救急病院で診てもらうことになる。
その場合、最初から小児科医に直接みてもらえるわけではない。
心配な場合は、夜の11時よりも前に、早めに急病診療所を受診するように。★5
受診するときには、家庭で飲んだ水分の量、下痢や吐いた回数などをメモしておいて、気になるときにはオムツも持参するようにして下さい。

Q.その他の生活上の注意は

A.
食欲や元気が出てきたら便がまだ柔らかくてもお風呂に入ったり徐々に普通の生活に戻していって構わない。
まだお風呂には入れないときにはお尻だけ洗ってあげるようにする。
保育園も、急性期を過ぎて元気や食欲、1日の便の回数などを目安にして判断する。

Q.細菌性の食中毒を疑わせるのはどんな場合か

A.
家族や一緒にいた人が同時に発症し、腹痛・嘔吐・下痢などの初期症状が強く、下痢に血便や粘液便が混じったり、発熱を伴ったりする場合には、細菌性の食中毒を疑う。
同じ食べ物を食べても家族の中で子どもだけ、あるいは一番小さい子だけが発症する場合がある。
症状がさほど強くなかったり、一人だけの場合は、診断がつきにくいことがある。
(病原体:腸炎ビブリオ、サルモネラ、カンピロバクタ、病原性大腸菌など−省略)

Q.ウイルスによる食中毒もあるということですが

A.
最近注目されている。
前述のいわゆる小型球形ウイルス:SRSV。(現在ではノーウォーク様ウイルス)
主に冬季にカキを生で食べたとき。鮮度とは関係ない。十分に加熱すれば大丈夫。
従来の検査ではわからなかった。

Q.その他に嘔吐や下痢をおこす病気の中で、特に気をつけなくてはいけないものは

A.
一つは「腸重積」で、腸閉塞を起こす。
頻度は多くないが、乳児期後半から1−2歳頃に発症することが多く、突然強く泣き出し、吐いたり顔色が悪くなってきたり、血便(イチゴゼリー状)を伴うような場合は急いで受診する必要がある。
早期なら高圧浣腸で治るが、時間がたってからだと手術が必要になる。
もう一つは、「急性虫垂炎」(俗に言う盲腸)。
大きい子で腹痛から始まる典型的な場合は見逃されることはないが、小さい子で胃腸炎と区別がつきにくく診断が遅れることがある。
その他の病気については、今回は省略。

Q.まとめ

A.
家庭での心構えは、吐いた→大変、下痢した→もっと大変、と思わないこと。
薬はあくまで補助的なもの。薬を飲んだらすぐ治るわけではない。
病気の知識は必要ないが、そのときどきの、子どもの状態を観察して把握して(まず顔を見る)、それに合わせた愛情のこもった看病が最も大切。
毎年この季節には、小さい子は一回くらいこのタイプの風邪にかかります。
そんなときに、今日の話をちらっと思い出して参考にしていただければと思います。


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