「第22回 東北北海道小児科医会連合会総会」報告 『青森県小児科医会報』 第5号(2003年)掲載

くば小児科クリニック 久芳康朗

日時 2002年11月9日(土)〜10日(日)
会場 山形テルサ

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図1 特別講演「IT時代の子育てと小児科医」
   細谷亮太先生
図2 山形駅西口と霞城セントラル
  (会場の山形テルサはこの手前にあります)

【プログラム】

<第1日>
特別講演「IT時代の子育てと小児科医」 細谷亮太(聖路加国際病院小児科部長)
会長講演「21世紀における小児医療の課題〜医療の国際比較を中心に」 佐藤哲雄(山形県小児科医会会長)

<第2日>
シンポジウム
メインテーマ「小児科医とIT〜小児医療・保健におけるIT導入の意義とその課題」
基調講演「ITが支える小児医療の未来像を模索する」 根東義明(東北大学大学院医学情報学分野教授)
話題提供
1.インターネットによる情報提供とコミュニケーション 川村和久(宮城県 かわむらこどもクリニック)
2.病院小児科における電子カルテの現状 中里 満(山形県 公立置賜総合病院小児科)
3.小児科診療所における電子カルテ導入の試み 佐藤哲雄(山形県 あかねヶ丘佐藤小児科)
4.病診連携とITの活用〜ブラウザを用いた患者紹介、検査予約システム 斎藤慶一(山形県 こども医院さいとう)
5.ホームページを導入した小児科医活動の展開 斎藤昌志(新潟県 さいとう小児科)
指定発言
1.嘱託医から園への情報発信「園医だより」 後藤敦子(秋田県 今村記念クリニック)
2.病院小児科における電子カルテの現状と話題 渡辺 徹(北海道 手稲渓仁会病院小児科)
3.電子カルテのない病院小児科における私のIT利用 北條 徹(福島県 医療生協わたり病院小児科)
4.小児科医が自作した電子カルテの試用経験と導入に向けての課題 久芳康朗(青森県 くば小児科クリニック)
5.電子カルテを導入して 伊藤亮助(岩手県 いとう小児科クリニック)

【感想】

 今回はITがテーマということで、時ならぬ吹雪に見舞われた山形で簡単な発表を行ってきました。私自身は手持ちの材料がなくて困ったのですが、電子カルテを中心としたIT化の目的とそのための諸条件など、これまで調べたり考えたりしたことを中心にまとめてみました。2日間を通しての大雑把な感想としては、現在の電子カルテシステムは小児科医にとって不十分で大幅な改良が必要ではあるけれども、医療の質の向上や情報公開・説明責任といった電子化の本来の目標を見失わないようにしながら、ここ1−2年で大きく情勢は変化して普及期に入っていくだろうということを実感できました。
 今年の春には八戸市立市民病院に電子カルテが導入されます。地域の基幹病院で大規模なシステムが動き出し、患者さんの医療を見る目も求めるレベルも高まってくるものと考えられます。開業小児科医も必然的に変わらざるを得ないのですが、そのハードルは入力を含めたユーザーインターフェースと経済的側面に尽きます。
 以下に抄録と発表の一部を掲載しておきます。

【抄録】

「小児科医が自作した電子カルテの試用経験と導入に向けての課題」 久芳康朗(青森県小児科医会 くば小児科クリニック)

 電子カルテは多くの小児科医にとってまだハードルが高く、現在市販されている製品にも一長一短がある中で、全国で数人の小児科医が小児科診療に特化した電子カルテを自作している。その一つでファイルメーカープロで作られた電子カルテを試用する機会を得たので、その短い経験と電子カルテ導入者・未導入者の意見の中から、診療データベースとしての機能やレセコンとの関係、カスタマイズの可能性などについて、これから導入を進める立場から留意すべき点を挙げてみたい。
 今後は、日医ORCAや日本外来小児科学会の電子カルテプロジェクトの動向も見据えて判断すべきと思われる。

【発表要旨】

電子カルテ導入に躊躇する理由
・入力の問題,スピード,絵や画像,検査データ
・将来性,安定性,互換性
・メンテナンス,トラブル時の対応,改定時の対応
・コスト,レセコン機能の有無,電話予約機能
・メーカー,小規模ベンダー,自作
・使い勝手:診療の質を上げるのか?
・カスタマイズ,一覧性,診療内容の検索機能
・医療ミス防止に役立つのか?
・医師の入力ミスをチェックする手段は
・過去の紙カルテの利用(ペーパーレス?)
・患者との情報共有・コミュニケーションは?

電子カルテを導入した小児科医の意見
・導入して良かった ある程度満足している
・もう少し待つ必要はなかった
・コストは大体50〜100〜500万円(希望≦100万)
・メンテナンスは年5〜50万円(希望≦20万)
・サポートは電話やMLが主
・キーボード入力が主 医師の仕事量は増加
・自作は機能追加可能 市販のものは難しい
・自作では一覧性を良くする工夫も
・患者・親と情報を共有できるようになった

小児科の電子カルテに求めたい機能
・乳幼児健診:問診票とチェックリスト
・身体計測の評価,成長曲線
・予防接種:問診票とワクチン歴の一覧
・体重あたりの処方量(自動変換機能)
・電話・WEB予約,ORCAとの連携
・患者データの収集,分析(臨床研究)
・気になる患者の表示 柔軟な検索機能
・感染症情報の地域ネットワーク化など

日本外来小児科学会電子カルテプロジェクト
・全員参加型=消費者+制作者,外来小児科に特化
・総合的診療支援システム
・カルテ,画像・検査,文書発行,オーダリング,データ共有,ネットワーク対応,患者自身がデータ管理
・医事会計・レセコンに接続可能:ORCA対応
・電話・WEB予約システムに接続可能
・「三原則」を満たす +カスタマイズ,マクロ機能,簡易プログラム機能
・オープンソース
・OSに依存しない:Windows, Mac OS, Linux
・臨床研究に使える
・検索機能,表示機能(グラフ化など),特殊目的の記載
・ネットワーク対応
・病診・診診連携、感染症情報,多施設研究など
・個人情報保護が課題
・医療の質の向上が図れる
・判断過程,非医療情報の記載,診療支援
・要約,時系列化,紹介状・サマリーの半自動化
・患者満足度の向上
・カルテ開示,説明,情報共有
・とりあえずそのままでも使える
・兄弟・姉妹カルテ検索機能
・複数オープン可能
・画面上で自由に配置
・2003年夏までにβ版を制作予定
※詳細は、日本外来小児科学会・電子カルテ検討会のホームページの「電子カルテが持つべき機能」をご覧下さい
 http://plaza.umin.ac.jp/~densi/

まとめ
・電子カルテは今後1〜2年で急速に普及していくのは間違いないが、過渡期における混乱や動向の変化も予想される
・小児科医が使いやすい電子カルテを主体的に考えていく必要がある
・自作カルテは検索機能やカスタマイズなど診療ツールとして優れているが、知識が必要で、真正性やレセプト接続も今後の課題
・日医ORCAや日本外来小児科学会の電子カルテの動向からも目が離せない

【余談】雪乃山形、仙山線顛末

 まさかこの時期に雪で遅れるとはね。
 9日(土)の夜は山形も吹雪。10日(日)12:30に小児科医会のシンポジウム(小児科医とITがテーマで青森県代表の指定発言者だったので早退けできず)の終了の挨拶も終わらないうちに会場を飛び出し、駅弁を買って仙山線快速「ホリデー仙山」に飛び乗る。実は仙山線に乗るのは今回が初めて。
 仙台駅での乗り替え時間が8分しかないのでちょっと心配したのですが、15時30分盛岡発の「はやて」試乗車に乗るためには山形新幹線福島経由でも間に合わない。この列車しかないんだよ。
 定時出発で安心したのもつかの間、次の北山形駅で遅れている下り列車とすれ違うために11分も待たされる。オイオイ、その情報は出発時にわかっていたはずだろう! ちゃんと隠さず知らせろよ(わかっていても対策はないんだけど)。
 もっとスピードアップしないものかとイライラする気持ちをよそにゴトゴト走るローカル列車。雪と紅葉と渓流、そして雪の山寺、心に余裕があれば見事な景色を楽しめたのですが…。
 途中で車掌からあちこちに問い合わせてもらうが、仙台には15分以上遅れて到着し乗り替えの新幹線は無情にも仙台駅を出発してしまった。しかも都合が悪いことに4人分の試乗券を私が持っている。仕方なく仙台駅の事務所でかけ合って、家族3人は盛岡駅で呼び出してもらい(イマドキ携帯のない家族)、コピーを見せて乗せてもらうことになる。結局、息子は往きも帰りも「はやて」に乗ったのに、父である私は一度も乗れず、大きな家族内格差が生じることになった。まあ、いっか。イヤでも乗る機会はこれから何度もあるでしょう。
 しかし、仙山線車中から仙台駅での交渉まで、都合1時間半(!)。乗れなかったことよりも、こちらの方でドッと疲れた。むこうも、最初からササッと処理してくれれば良かったのに、「連絡します。確認します。お待ち下さい」の繰り返し。待たされるうちにこちらも機嫌が悪くなってきて、そのせいか帰りの盛岡−八戸間は仙台駅助役の署名捺印入り「本券持参のお客さまは…便宜乗車しますので宜しくお願いします」と書かれた「業務連絡書」を発行してもらい、無料で乗ることが出来ました。要するに、無料で乗車券は出せないけど特別の取り計らいにより紛れ込ませて乗せてくれたというわけですね。この証明書は大変珍しいものなので保存しておこう。
 ただし、「やまびこ」の指定は取れたものの「はつかり」は自由席。さて、これが最後の盛岡ダッシュと頑張って一番で駆け下りたのですが、既に満席で立っている人の姿が。なるほど、試乗会で八戸に帰る人は臨時列車だけではさばききれなかったわけだ。
 というわけで、八戸までノンストップの「スーパーはつかり」1時間は少々しんどかった。最近の定番は、盛岡で乗り換えてからマーラーの「復活」を聴く。これで陸奥湊に着く頃にクライマックスを迎えます。(この2週間後には、八戸市民フィルと市民大合唱団による新幹線開業記念「復活」演奏会が成功裏に開催されました)
 まあ、こんなもんですかね。最後の「はつかり」をとことんまで楽しめというありがたい鉄道の神様の思し召しでしょう。でも、30日の夕方に青森に行くときが本当の最後。そして翌日は「つがる」の一番列車。
 盛岡駅の乗り替えも、これで最後ですね。長い間お世話になりました。

【次回予定】第23回東北北海道小児科医会連合会は2003年11月15日(土)〜16日(日)に新潟県小児科医会の主催で開催されます。2004年秋は再び青森県小児科医会が主催で、八戸市で開催することに内定しています。

リンク

特別付録 くば小児科ホームページ