5歳を過ぎても夜尿が多くみられる場合を夜尿症といいます.夜尿症は6歳で6〜15%,10〜11歳を過ぎると2〜3%にみられ,男の子の方が多い傾向にあります.夜尿症は必ずしも病気と考える必要はないのですが,本人も気にしたり集団生活で困る場合もあり,対応が求められてきます.
● 分類
一次性夜尿症(生来型) 乳児期から続いている夜尿症 90%
二次性夜尿症(獲得型) 5歳以降,新たに始まる夜尿症 10%
● 原因と病型
1)多量遺尿型:膀胱容量は200ml以上,夜間尿量が多く濃縮力不足
+多飲,塩分摂取過剰,生活リズムの乱れ,心身症,低身長など
2)排尿機能未熟型:膀胱容量が200ml以下,濃縮力や夜間尿量は正常
+頻尿,昼間遺尿(おもらし),冷え症,習慣性便秘
3)混合型:両者が合併したタイプで比較的重症
基本的には,体の機能的な成熟が遅めであると理解して下さい.腎・泌尿器疾患,神経系やその他の異常を伴う場合は専門医の診察が必要です.
● 三原則は,「あせらず」「おこらず」「おこさず」
○ あせらない
子どもの成長や発達には個人差があるので,あせらずに時間をかけて治ってくるのを待ちましょう.家族性のことが多いので,ご両親のどちらかで夜尿がみられた場合,それと同じ頃には治るだろうとお考え下さい.
○ おこらない
5-6歳を過ぎてくると,本人も気にするようになってきます.失敗したと思っているところに兄弟がいるところで怒られたりすると,自信を喪失し,そのためにおねしょが治りにくくなることもあります.失敗したときには叱らずに慰め励ましてあげましょう.成功したときにはもちろん,毎日の生活で小さなことでも責任を持ってやらせ,やりとげたときには必ず誉めてあげて,徐々に自信をつけさせて自立心を養うことが大切です.
○ 起こさない
おねしょをしても気づかない程ぐっすり眠っているので夜中に起こして排尿させている場合がありますが,深い睡眠は尿を濃縮させる抗利尿ホルモンの分泌を高め,膀胱がいっぱいになったときの無意識の抑制が膀胱の容量を増大させることにつながります.起こしてしまうとその時は良いかもしれませんが,結果的には排尿機能の成熟を遅らせることになります.
● 生活上の注意
1)水分摂取のコントロール(多量遺尿型の場合)
午前中は多めに水分をとり,昼からは控えめに,夕方からは厳しく制限するように1日の水分摂取のリズムをつけていきます.塩分が多いと尿量が増加しのども渇くので,塩分は控えめにします.
2)規則正しい生活:早寝早起き,朝ごはんは必ず食べる
3)排尿を我慢する訓練(排尿機能未熟型の場合)
尿意を訴えたときに,5分間からはじめて30分くらい我慢できるようにもっていく.休みの日に授業2時間毎の時間まで我慢できるように練習する.昼間ガマンした時の尿量を記録する.排尿途中で一旦止めてみる.
4)冷え症への対処
寝具(あらかじめ暖める),入浴などで体を冷やさないようにする.
5)心理・環境的ストレスへの対処
子どもの話をよく聞いてあげ,原因が取り除けるものであれば取り除いてあげる.そうでない場合は子どもの心の支えになってあげる.得意なことや興味のあることで自信をつけさせてあげることも大切です.
6)おねしょカレンダー
成功した日にシールを貼っていき,一定の数に達したら小さなご褒美をあげることで,治療意欲を引き出し改善につながるといわれています.
● 治療 −いつからはじめるか−
入学前は原則として治療の必要はありません.生活上の注意を守りながらゆっくり待ちましょう.小学校低学年で,夜尿が毎晩1回または2回以上で,時刻が午前1時よりも早くて分量も多く,本人も心理的負担を感じている場合は治療を考えます.検査としては,まず夜間の尿量と浸透圧(濃さ),昼間の最大の1回尿量を測定してどのタイプかを判定します.
1)多量遺尿型:三環系抗うつ剤(トフラニールなど)が第一選択です.抗うつ薬といっても子どもに合わせた量ですから心配はありませんが,悪心,食欲不振などがみられることもあります.無効な場合,抗利尿ホルモン(DDAVP)点鼻療法を試みることもあります.DDAVPは効果があきらかなので,修学旅行などのときに使うこともできます.
2)排尿機能未熟型・混合型:自律神経剤を使うことがあります.
3)冷え症を伴う場合:小建中湯などの漢方薬が比較的有効のようです.
4)心理的要因が大きい場合:カウンセリングが必要な場合もあります.
● 治っていく過程
夜尿の回数が2回だった子は1回に,時間も朝方になってくればもう少しで治ってくるというサインです.大丈夫な日が多くなってきたら,季節変動に注意しながら薬を減量・中止していきます.旅行などで心配な場合は一時的に薬を飲むことも考慮します.
1997年10月1日
くば小児科クリニック
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