■ 熱がでたとき
こどもが病気の時にお母さん方が一番心配するのは「発熱」のことでしょう.確かに高い熱がでてぐったりと元気がなくなれば,心配するなというのが無理な話です.でも,私たち小児科医はちょっと違った角度から熱のことをとらえています.熱がでる前に,あるいは熱がでてしまってからでも遅くはありません.少し長くなりますが,この項目だけは是非目を通して参考にして下さい.

●基本的な考え方

熱はかぜのウイルスや細菌が直接だすのではありません.これらの病原体をやっつけようと体が反応するために熱がでるのです.熱は体の防御反応ですから,熱だけを下げようとすることには大きな意味はありません.

こどもの発熱をみたときに,私たちが真っ先に注意して考えるのは,
 原因は何か(ただのかぜか,ほかに隠れている原因はないか)
 肺炎や気管支炎,脱水などの合併症を併発していないか,全身状態はどうか
といったことです.

原因がはっきりしていれば熱の経過も予測がつきます.合併症をおこしていなければ,熱が少しつづいてももう少し頑張って大丈夫と判断ができます.

もちろんその逆もあります.微熱でも原因がわからずつづくようなときには検査が必要な場合があります.ずっと熱がでていなくても咳がだんだんと多くなり,最後に熱がでたときにはもうすでに肺炎になっていたということもあります.

また,「熱が40℃もある」「坐薬を使ったのだが全然下がらない」といった事でご連絡をいただくことがありますが,これらはこどもの発熱の経過の中では特別な症状と言うほどのことではありません.こどもは熱がでると一気に40℃位まで上がることがありますが,熱の高さ自体は重症度とは関係がありません.坐薬は使い方のタイミングなどで全然きかない場合もあります.熱がまだ上がっている途中で使うと,熱の上昇スピードに打ち消されてしまうのです.

このように,熱は原因ではなく結果ですから,熱自体ではなくそこに込められている情報を読み取ることが大切です.字で書くと難しそうですが,大体2-3回こどもが熱をだす頃には皆さん肌で感じてわかってきます.それまではちょっとオロオロする経験も必要かもしれません.

そうは言っても,熱が2-3日しても下がらないとだんだん心配になってきます.私たちの役目は病気を治すことではなく状態をチェックして的確に判断することですから,そのようなときには随時つれてきて診察させて下さい.

熱自体の高さそのものは重症度とはつながりませんが,毎日どのように上がり下がりしているのか,全体の傾向や経過はどうなのか,これは非常に大切な情報です.毎日の熱とその他の症状を記録して持ってきていただけると判断の助けになります.

逆に,経過をよく教えていただけない場合は判断しきれない場合があります.

ちなみに,「熱が出る」というのは何度以上をさすのでしょうか?年齢やその子の平熱などによって異なりますが,はっきり「熱がある」と言えるのは,おおよそ「37.5℃以上」ということで考えて下さい.37〜37.5℃でも「微熱」かもしれないし,これからもっと高くなる可能性もありますが,1回の測定だけではわかりませんので経過をみて判断する必要があります.

●熱がでたときの家庭での対処

熱がでたらまず最初にすること,それは「安静」です.まず休ませて下さい.

熱以外の症状がない場合は「飲み薬」はまだ必要ありません.

熱さましはすぐには使わないつもりでまず様子を観察します.

寒気があって顔色が悪いときには,温かくして布団を多めにします.この段階で熱が上がってきていてもすぐに熱さましを使わずに様子をみましょう.水分は最初は必ずしも必要ありませんが,体を温める飲み物を飲ませても良いでしょう.

熱が上がりきって顔色が赤くなり,体が熱く汗をかいてきて暑がるようになったら,布団を薄くして手足を出し熱を外に逃がしてあげるようにします.

汗をふいてあげ下着を取り替え,嫌がらなければ蒸しタオルで体を拭いてあげると更に効果的です.

水分を少しずつ回数を多くしてとらせます.冷たいものの方がとりやすいでしょう.飲み物の種類は,赤ちゃん用イオン飲料,麦茶,湯冷ましなどが適しています.

氷枕などもこの時期に嫌がらないようならやってみましょう.

熱さましを使うのはこのタイミング(熱が上がりきったところ)がベストです.

熱は必ず上がり下がりしながら経過しますので,その時期を見はからいながら看護することが大切です.

基本的にはこれだけで,特に難しいことはありません.あとは辛抱強くこまめに看病してあげることです.

夜に熱がでてあわててお連れいただいても,診察してあとは様子をみることと坐薬を処方するくらいしかできません.もちろん他に具合の悪そうな症状があれば別ですのでご連絡下さい.

ですから,子どもが小さいうちは坐薬を切らさずに常備しておくようにすれば,夜や休みの日にあわてないですみます.なくなりそうなときには一緒に処方しますので教えて下さい.言うまでもありませんが,かぜの症状は熱だけではありませんので,他の症状に対する家庭での看護も必要になります.

●熱さましの使い方

熱さましは病気を治す薬ではありませんから,熱をだしている原因がなくならないうちは時間が来るとまた熱が上がってきます.
熱さましを使う目的は,高熱による症状を和らげて,少し楽に眠れたり水分をとることができるようになることと考えて下さい.

熱さましを使うめやす
 熱が高くて(おおよそ38.5℃以上)
 息づかいが荒くつらそう
 食欲がなく水分もとれない などの場合
どんなときは使わなくても良いか
 熱が高くても水分がとれてすやすや眠っている
 機嫌や食欲がさほど悪くない

熱さましの使い方は厳密に決まったものではありませんので,お子さんの状態に合わせて判断していって下さい.
間隔は普通は6時間あけるようにし,1日3回までを目安にします.
当クリニックではほとんどの場合アンヒバ坐薬(アセトアミノフェン)を処方しています.全世界で子どもに最も多く使われている薬です.これできかない場合にもっと強い薬を所望される方がいますが,強い薬=副作用もでやすい薬であることをお忘れなく.また,熱冷ましの注射は危険ですので行っておりません.
大きな子用には飲み薬もあります.使い方は同じですので坐薬と重なって使わないようにして下さい.種類や注意点はこの後のページに書いてあります.
使い分け
 座薬:水分や薬が飲めない すぐに効かせたい 小さな子
 飲み薬:大きな子で坐薬を嫌がる 下痢で坐薬がでてしまう

●注意

 熱さまし使用の是非について時として極端な意見が見受けられます.少し注意して考えてみましょう.1994年に「熱さましを使うと体の防御機能を妨げて,熱が下るまでの期間が長くなる」という説をマスコミに流した人がおり,それを覚えている方もあるかもしれません.この時の発表は検証の仕方が間違っており専門家の間では受け入れられていません.その可能性を否定はできませんが,あまり差がないだろうと考えるのが一般的です.この説については,「むやみに熱さましばかりを使っても意味がないばかりか副作用がでやすくなることも考えられるので,症状に合わせて適度に使うようにしましょう,あるいは,状況が許せば使わずに様子をみても構いません」と解釈すれば問題はないかもしれません.熱さましは上手に使えば熱のある期間を楽に乗り切ることができる薬です.副作用に関しては「熱さましの種類」のページを参照して下さい.

●こんな考え方は間違っている?

○赤ちゃんの発熱は「知恵熱」なので心配ない

 「知恵熱」というものは医学的にはありません.もしかしたら突発性発疹などによる初めての発熱のことを指していたのかもしれませんが,今でもよく耳にする言葉でときどき質問されます.もちろん,心配なものかどうかは,「知恵熱」であるかどうかではなく,上に書いたように症状や経過で判断するものです.

○熱があるときには布団をかぶせて部屋を暑くして汗をかかせる

 これは今でも特におばあちゃんがそうさせていることがありますが,小さな子では熱の逃げ道がなくなり時として危険な場合がありますのでやってはいけません.汗は外から温めてかかせるのではなく,中から熱を下げるために出てくるものです.

○熱があるときには部屋を閉めきって外のかぜをあてない

 これも全く根拠がありません.部屋の中はウイルスが充満しています.寒い季節でも閉めきらずにときどき空気を入れ替えて外のフレッシュな空気を吸わせてあげましょう.ちなみに,部屋の温度は20℃,湿度は60%以上を目安に調節してあげて下さい.

○熱が下がってもかぜがすっかり治るまでお風呂に入れてはいけない

 これもよくみられる間違い.お風呂の入り方のページに書きましたが,熱が微熱程度になればお風呂に入っていけない理由はありません.食欲や元気が出てきたら,ぬるめのお風呂にざっと入れてあげると気分も良くなり新陳代謝をはかることもできます.

○熱さましは熱が上がるたびに使う

 ここまで読んでいただければ正しいかどうかはわかりますね.

○前の晩熱があったが朝起きたら下がっていたので幼稚園に行かせた

 これもときどきみられます.熱があるとすぐにクスリクスリと騒ぐくせに,熱が下がると休ませたくないので無理させて学校や幼稚園に行かせる.これではなかなか良くなりません.熱は上がり下がりしながら経過するのが普通ですので,朝下がっていても夕方になるとまた上がってくるのはごく普通の経過です.学校や幼稚園は,熱がまる1日以上出なくなり食欲や元気が回復してからにしましょう.

○高い熱がでると頭をやられる

 これは現在では心配ありません.おそらく昔まだ脳炎や髄膜炎の診断がきちんとされていない時代にそのようなことが言われたのだと思いますが,今はそのような病気があれば見逃すことはありませんので,普通のかぜなどの熱だけで頭をやられることはありません.

○赤ちゃんはお母さんからの免疫があるので熱はでない

 これも間違い.お母さんがかかったことのあるかぜの免疫はありますが,かかったことのないものには赤ちゃんもかかります.また,その免疫も3か月を過ぎる頃から急速に弱まってきますので,4-5か月になればいつ風邪をひいてもおかしくありません.なお,生後3か月未満で熱がでた場合には熱の原因が隠れている場合がありますので,素人判断で様子をみずにすぐに受診することが必要です.

1996年4月1日
くば小児科クリニック


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