会議室:「くば小児科BBS」
「約束された場所で」 村上春樹 村上春樹の本は翻訳物をのぞいてほとんど読んでおり,私自身や社会の大き な変化の中で,常に心の奥に素直に入ってくるような同時代的感覚を共有し続 けてきましたが,前作「アンダーグラウンド」に続いて今度はオウムの(元) 信者へのインタビューをまとめた異色の作品です.驚くような新事実が書かれ ているわけではありませんが,この信者たちの,そしてオウムそのものが抱え る問題の根っこには,最近の少年犯罪や不登校,学級崩壊,そして家庭の問題 などと同質のものが潜んでいることにいやでも気づかされます. 私はこのオウム信者たちと同世代なだけに,どこかにひっかかるような気持 ちを抱き続けてきました.もし自分だったらどうか.自分がそこにいたかもし れないという不安.しかし,この本を読む限り,自分はこうはならなかったと いう確信を持つことができました.その一方で,この人達の言っていることは 大体理解できるし,都会で遊び歩いているような多くの若者に比べて,より自 分に近い,親密感のような感情を抱くことも事実です. 後半には河合隼雄との対談も掲載されています.本の帯にも掲載されている のですが,ちょっと印象に残った部分を抜粋してみます. 村上 僕はオウム真理教の一連の事件にしても,あるいは神戸の少年Aの事件 にしても,社会がそれに対して見せたある種の怒りの中に,何か異常なものを 感じないわけにはいかないんです.それで僕は思ったんですが,人間というの は自分というシステムの中に常に悪の部分みたいなのを抱えて生きているわけ ですよね. 河合 そのとおりです. 村上 ところが誰かが何かの拍子にその悪の蓋をぱっと開けちゃうと,自分の 中にある悪なるものを,合わせ鏡のように見つめないわけにはいかない.だか らこそ世間の人はあんなに無茶苦茶な怒り方をしたんじゃないかという気がし たんです.だからたとえば,少年Aの写真を雑誌に載せる.それを載せる載せ ないで口汚く大喧嘩する.僕に言わせればそんなのは本質的な問題じゃないで す.それよりも真剣に討議しなくてはならないもっと大事なことがあるはずだ と思いますよね. この対談は,全てああそうだったのかと納得できて,心にしっくりくるところ だらけです.
くば さんからのコメント
(1999年 2月 9日 火曜日 23:21:16)
「戦争論」の中で小林はオウムに吸い寄せられていく若者を「純粋くん」と 表現してますが,確かにそれは当たっている.この対談の中でも,奇妙に平板 で広がりのない世界観,といった表現になっているが,そこが「普通の人」と は決定的に違うところ.だと思って安心したのだが,必ずしもそうとは言い切 れない...のかもしれない.
えの さんからのコメント
(1999年 2月 10日 水曜日 12:39:32)
私は、SPAWNやデビルマンが好きなのですが、 何か共通するものがあるような気がします。 SPAWNは、作者が例の70号のホームランボ ールを競り落とした人ですが、SPAWNは、ほ とんど邪悪の塊なんですが、幽かに愛の記憶みた いものが残っている。その記憶に悩みながら、邪 悪の力で邪悪を攻撃する。 何か自然主義文学の権化のような話しですが。そ ういう世界観が私は好きなんです。
えの さんからのコメント
(1999年 2月 10日 水曜日 12:43:00)
参考までに。 → SPAWN
くば さんからのコメント
(1999年 2月 10日 水曜日 19:22:06)
>SPAWNは、ほとんど邪悪の塊なんですが、幽かに愛の記憶みた >いものが残っている。その記憶に悩みながら、邪悪の力で邪悪を攻撃する。 はじめて聞く名前でした.で,ページをみてみたけどよくわからなかった...
えの さんからのコメント
(1999年 2月 11日 木曜日 15:59:51)
>ページをみてみたけどよくわからなかった... サイトでは無理でしょうね。コミックかビデオ じゃないと。 ま、基本は「ヒトはヒトにとって狼だ」という どっか古代の言葉がありましたが、それです。